エンレストとは?
エンレスト(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)は、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)に分類される薬剤です。
エンレストは、体内でサクビトリルとバルサルタンに解離して、それぞれネプリライシン(NEP)とアンジオテンシIIタイプ1(AT1)受容体を阻害します。
NEPを阻害すると、血管拡張作用・利尿作用・交感神経抑制作用・心肥大抑制作用などを有するナトリウム利尿ペプチドの作用が亢進されます。また、AT1受容体が阻害されると、血管収縮・体液の貯留・心筋肥大などに対する抑制作用が得られます。
これらの作用により、血圧の低下や心臓への負荷軽減が図られることから、高血圧症や慢性心不全の治療に用いられます。
なお、「エンレスト(Entresto)」という名称は、「Entrust(信頼できる薬剤)」に由来するとのことです。
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エンレストの特徴
エンレストは、服用すると1つの有効成分が2つの有効成分に乖離して降圧作用や心血管保護作用などを発揮する薬剤です。高血圧や慢性心不全の治療に用いられますが、慢性心不全については1歳以上の小児に対しても適応があります。欧米のガイドラインでは、左室駆出率が低下した慢性心不全に対する標準的な治療薬の1つとして推奨されています。
効能効果・用法用量
エンレストは、高血圧症と成人および小児の慢性心不全に適応があります。ただし、適応疾患は規格により異なります。疾患ごとの用法用量は下記のとおりです。
- 高血圧症(錠100mg、錠200mgのみ)
通常、成人には1回200mgを1日1回投与します。投与量は年齢、症状により適宜増減しますが、最大投与量は1日1回400mgまでです。
- 慢性心不全(錠50mg・100mg・200mg・粒状錠小児用12.5mg・31.25mg)
通常、成人には1回50mgを開始用量として1日2回投与します。そして忍容性が認められる場合は、2~4週の間隔で段階的に1回200mgまで増量します。1回投与量は50mg、100mgまたは200mgとして、いずれの場合も1日2回投与します。なお、投与量は忍容性に応じて適宜減量します。
一方、1歳以上の小児には体重に応じた開始用量を1日2回経口投与します。そして忍容性が認められる場合は、2~4週の間隔で段階的に目標用量まで増量します。なお、投与量は忍容性に応じて適宜減量します。
臨床成績
軽症~中等症の本態性高血圧症の方を対象とした国内臨床試験では、エンレストによる8週間の治療で既存薬に対する優越性が証明されています。
成人の心不全の方を対象とした海外の臨床試験によると、エンレストによる治療で心血管死および心不全による初回入院などの発現リスクが既存薬に比べて有意に減少したことが示されています。
また、小児の慢性心不全の方を対象とした日本を含む国際的な共同臨床試験によると、エンレストは既存薬に比べて臨床的に意味のある症状の改善に寄与したことが報告されています。
エンレストを服用する上での注意点
エンレストを服用できない方
以下に該当する場合は、エンレストを服用できません。
- エンレストの成分に対して過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)投与中の場合、あるいは投与中止から36時間以内の場合、あるいは血管浮腫の既往歴がある場合(重篤な副作用の一つである血管浮腫があらわれるおそれがあります。)
- ラジレス(一般名:アリスキレンフマル酸塩)を服用している糖尿病の方(非致死性脳卒中・腎機能障害・高カリウム血症・低血圧の発生リスク増加がバルサルタンで報告されています。)ただし、他の降圧治療を行っても血圧のコントロールが著しく不良の場合など治療上やむを得ない場合は、ラジレスとの併用を考慮することもあります。
- 重度の肝機能障害がある場合(エンレストの血中濃度が上昇するおそれがあります。)
- 妊娠中または妊娠している可能性のある女性(動物を対象とした試験で、胚・胎児致死および催奇形性が認められたとの報告があります。また、バルサルタンを含むARBやACE阻害薬で、胎児・新生児の死亡などが報告されています。)
エンレストの服用に注意が必要な方
腎動脈狭窄や高カリウム血症のある方は、病状によってはエンレストを使用できません。また、脳血管障害がある方はエンレストの服用で病状が悪化するおそれがあります。さらに、厳重な減塩療法中の方については一過性の急激な血圧低下を起こすことがあるため、注意が必要です。
なお、慢性心不全で血圧が低い方については、定期的に血圧を観測するなど状態の変化に注意しながら投与を行います。
そのほか、腎機能障害がある方、肝機能障害がある方なども投与にあたっては注意が必要です(参照:特定の患者さまへの使用に関して)。
エンレストの副作用
おもな副作用として、めまいや起立性低血圧、咳、疲労感などが報告されています。
また、重大な副作用として、血管浮腫、腎機能障害や腎不全、高カリウム血症、ショック、間質性肺炎、横紋筋融解症、肝炎などが報告されています。重大な副作用が起こることはまれですが、以下のような症状があらわれた場合は早急に受診して適切な処置を受けてください。
エンレスト粒状錠の服用方法
エンレストには錠剤と粒状錠小児用の2種類があります。
粒状錠小児用はカプセル型になっていますが、服用するのはカプセル内の「粒状錠」のみです。誤ってカプセル型容器のまま飲むことがないようにご注意ください。
詳しい服用手順は以下のとおりです。
STEP1:手を洗ってよく乾かします。手が濡れていると、カプセル型容器や粒状錠のコーティングが溶けるおそれがあります。
STEP2:以下のものを清潔で平らな場所に用意します。
- 小さなボウルやカップなどの容器
- スプーン
- 少量の飲みこみやすい食べ物(服用補助ゼリーや細かく砕いたゼリー、果物や野菜のペースト、ヨーグルト、プリンなど)※温かいものだとコーティングが溶けて苦みが出やすくなります。
- エンレスト粒状錠小児用が入ったアルミ包装
すべて用意できたら、食べ物を容器に入れてください。
STEP3:医師から指示されたカプセル型容器の種類と個数を確認して、必要なだけアルミ包装から取り出します。
STEP4:STEP2で用意した食べ物入りの容器の上で、カプセル型容器を開封します。カプセルを開封する際は、透明部分を下にして粒状錠が下に来るように持ってください。そして、カプセル型容器の中央を優しくつまみ、色付きのキャップを軽く引っ張って(あるいは回しながら)開封してください。
STEP5:カプセル型容器内の粒状錠をこぼさないようにすべて食べ物の上に取り出してください。なお、エンレスト粒状錠小児用12.5mgには4錠、エンレスト粒状錠小児用31.25mgには10錠の粒状錠が入っています。
※中身の粒状錠が容器の外にこぼれた場合は、こぼれた粒状錠や粒状錠の入った食べ物は廃棄し、STEP2からやり直してください。
STEP6:粒状錠と食べ物を混ぜてスプーンですくい、すぐに口の中に入れて飲みこませてください。
※粒状錠をかむと苦みを感じることがあるため、かまずに飲み込ませるようにしてください。
STEP7:空になったカプセル型容器は自治体の分別区分などにしたがって廃棄してください。
日常生活における注意点
他の治療薬との併用に関して
エンレストは、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(高血圧症などの治療薬の一種)と併用できません。併用すると、重大な副作用である血管浮腫のリスクが増加する可能性があるためです。これらの薬剤が投与されている場合は、少なくとも36時間あけてからエンレストの服用をスタートします。また、エンレストの服用をやめてACE阻害薬を投与する場合は、エンレストの最終投与から36時間以上あける必要があります。
さらに、エンレストはラジレス(一般名:アリスキレンフマル酸塩)との併用も原則禁忌とされています。ただし、併用できないのは糖尿病を併発している方のみです。他の降圧治療を行っても血圧のコントロールが著しく不良の場合は、ラジレスとの併用を考慮することもあります。
その他、併用に注意が必要とされている薬剤は以下のとおりです。飲み合わせが心配な方は、診察時にご相談ください。
- アンジオテンシンII受容体拮抗薬(高血圧症などの治療薬):腎機能障害、高カリウム血症、低血圧をまねくおそれがあります。
- アトルバスタチン(高コレステロール血症の治療薬):アトルバスタチンの血液中の濃度が上昇するおそれがあります。
- PDE5阻害薬(勃起不全や前立腺肥大症による排尿障害などの治療薬):併用により降圧作用が強くあらわれるおそれがあります。
- カリウム保持性利尿薬・カリウム補給薬:血清カリウム値が上昇するおそれがあります。
- ドロスピレノン・エチニルエストラジオール(月経困難症の治療薬):血清カリウム値が上昇することがあります。
- トリメトプリム含有製剤(合成抗菌薬):血清カリウム値が上昇することがあります。
- シクロスポリン(免疫抑制薬):血清カリウム値が上昇することがあります。また、バルサルタンの血液中の濃度が上昇して副作用が増強されるおそれがあります。
- 利尿降圧薬:失神や意識消失などをともなう急激な血圧低下を起こすおそれがあります。また、利尿作用が増強されるおそれがあります。
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬(解熱・鎮痛に使われる薬):降圧作用が弱くなることがあります。また、腎機能が悪化するおそれがあります。
- リチウム(両極性障害などの治療薬):リチウム中毒をまねくおそれがあります。
- クラリスロマイシン、エリスロマイシン(抗生物質の一種):バルサルタンの血液中の濃度が上昇して、副作用が増強されるおそれがあります。
- ビキサロマー(高リン血症治療薬):エンレストの作用が弱くなるおそれがあります。
特定の患者さまへの使用に関して
腎機能障害がある方への使用
腎機能障害があると、エンレストの血中濃度が上昇するおそれがあります。
そのため、腎機能障害がある方や血液透析中の方にエンレストを投与する場合は、血圧や血清カリウム値、腎機能などを十分に観察したうえで治療の可否や継続を判断します。
肝機能障害がある方への使用
重度の肝機能障害がある方については、エンレストの投与が禁忌とされています。
中等度の肝機能障害がある方についても、エンレストを投与すると血中濃度が上昇するおそれがあることから、投与にあたっては血圧や血清カリウム値、腎機能などを十分に観察しながら投与を行います。
妊娠する可能性がある方への使用
妊娠中の方にアンジオテンシン返還酵素阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬を使用したケースでは、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡など)が報告されています。
そのため、妊娠する可能性がある方については投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を行います。
なお、エンレスト投与開始前には妊娠していないことを確認させていただきます。また、投与中も妊娠していないことを定期的に確認し、妊娠が判明した場合には直ちに投与を中止します。
妊娠している方への使用
妊娠中の方あるいは妊娠している可能性のある方にはエンレストを投与しません。
動物を対象とした試験では、エンレストの投与で胚・胎児致死および催奇形性が認められたと報告されています。
また、妊娠中期・末期にバルサルタンを含む類薬を投与した症例において、自然流産、胎児・新生児の死亡、羊水過少症、胎児・新生児の低血圧、腎機能障害、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全、羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の奇形、肺の発育形成不全などがあらわれたとの報告があります。
授乳中の方への使用
エンレストがヒトの乳汁中へ移行するかどうかは不明ですが、動物を対象とした試験では乳汁中に有効成分が移行することが報告されています。また、動物にバルサルタンを投与した試験では、出生児の低体重や生存率の低下などが認められています。
そのため、エンレスト服用中は授乳しないことが望ましいとされています。
お子さまへの使用
エンレストは1歳以上の慢性心不全に適応がありますが、低出生体重児・新生児を対象とした臨床試験を実施していません。また、高血圧症については、小児などを対象とした臨床試験を実施していません。
ご家庭ではお子さまの誤服用を防ぐため、保管場所などにご注意ください。
ご高齢の方への使用
一般的に、高齢の方の過度の降圧は脳梗塞をまねくおそれがあるため望ましくありません。また、高齢の方にエンレストを投与した場合、低血圧や高カリウム血症、腎機能障害の発現が増加することが報告されています。
したがって、エンレストを投与する際には、年齢や症状、合併症、併用薬などに配慮したうえで治療方針を慎重に決定します。
エンレストの患者さま負担・薬価について
エンレストには3種類の錠剤と2種類の粒状錠があります。各剤型・規格の薬価は以下のとおりです。
患者さまにご負担いただく薬剤費は、保険割合に応じて変わります。
例えば、3割負担の患者さまがエンレスト錠200mgを1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は1539.9円になります(薬剤費のみの計算です)。
よくあるご質問
- 高血圧と心不全で飲み方が違うようですが、高血圧治療中に心不全と診断されたらエンレストの飲み方を変えればいいのですか?
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心不全を治療中の高血圧の方や高血圧の治療中に新たに心不全を発症した方については、症状に応じて1日の服用回数や1回の服用量を調整します。自己判断で飲み方を変えるのは危険ですので、必ず指示に従ってください。
- エンレストを飲み忘れたら、どうすればいいですか?
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エンレストを飲み忘れたら、気付いたタイミングですぐに1回分を飲んでください。ただし、次の服用時間が近い場合は1回分を飛ばし、次の服用時間に1回分を服用してください。
なお、飲み忘れがある場合でも2回分を一度に飲まないでください。服用量が多くなると、副作用が発現しやすくなります。