糖尿病とは?
糖尿病は、すい臓から放出されるインスリンの量が足りなかったり、インスリンの効きが悪くなったりすることで、作用が低下し血糖値の上昇を抑えられなくなる疾患です。
慢性的に血糖値が高い状態が続くことで、細い血管が糖にさらされてダメージを受けます。
糖尿病の三大合併症は網膜症、腎症、神経障害ですが、これは網膜や腎臓・抹消にある細い血管が障害されるために起こります。ほかにも心血管疾患、脳卒中などの動脈硬化による病気になりやすくなることが特徴です。
糖尿病の分類
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。
1型糖尿病は自己免疫疾患であることが多く、子供のころに発症する方が大半です。すい臓にあるβ細胞が破壊されることでインスリンが分泌されなくなってしまうために引き起こされます。
2型糖尿病は、糖尿病のおよそ90%以上を占め、食事や運動などの生活習慣がリスク要因となり引き起こされます。40歳を過ぎると増えはじめ、現在日本で糖尿病またはその疑いがある者の数は2000万人と言われています。成人の6人に1人が糖尿病に該当する生活習慣病の代表となっています。
糖尿病の由来
糖尿病は英語でDiabetes Mellitusという病名で、略してDMと呼ばれることもあります。
糖尿病の歴史は古く、紀元前15世紀ころのパピルスには「尿が異常なほど出る病気」と記されており、紀元2世紀にカッパドキアの医師によりDiabetesと命名されました。Diabetesはギリシャ語でサイフォンのことで、水道の蛇口を開くように尿が出ることを意味しています。
Mellitusはラテン語「蜂蜜のように甘い」という意味で、17世紀にイギリスの医師が糖尿病患者さんの尿が甘いことを発見し、mellitusを足してDiabetes Mellitusという病名になりました。
日本では「糖尿病」という名前のため、おしっこから糖が出る病気だと思われる方もいますが、必ずしも尿糖だけの話ではありません。糖尿病の病態の理解が進んだ結果、血糖値の管理が重要であると考えられています。血糖値については後ほど詳しく説明します。
糖尿病の原因
2型糖尿病の原因には遺伝的要因と環境的要因のふたつがあります。
遺伝的要因
糖尿病そのものが遺伝するわけではなく、インスリン分泌が低下しやすい、インスリン抵抗性を引き起こしやすいなどの体質が遺伝することがあります。あくまでも体質が遺伝しているだけで環境的要因の予防で糖尿病の発症を抑えることは十分に可能です。
人種による違い
日本人の多くが黄色人種(モンゴロイド)であり、糖尿病を発症しやすいことがわかっています。これは農耕民族だったことに起因します。農耕民族の食生活は米などの穀物中心で、肉や高脂肪な食物をほとんど摂取しませんでした。また農耕作業は運動量が多く摂取したエネルギーをどんどん使って働くので、ブドウ糖をエネルギーとして取り込むために使うインスリンの量は少なくて済みました。
一方、欧米人(コーカソイド)は牧畜民族で、肉や牛乳などの食物を多く摂取してきました。膵臓には脂肪やたんぱく質を消化する外分泌機能があり、欧米人の膵臓は日本人よりも大きいことが知られています。
肉や脂肪は穀物よりも高カロリーで、肥満になりやすい特徴があります。肥満になるとインスリンの効きが悪くなりますが、より多くのインスリンを分泌できるようにβ細胞の数や機能を増大させることで血糖値を保ってきました。その結果、欧米人のインスリンの分泌量は、日本人の1.5~2倍ぐらいと大きな差があります。
環境的要因
糖尿病を引き起こす環境的要因は、運動不足、過食、肥満、ストレスなどが代表的です。
とくに現代では、食の欧米化により高脂肪食の摂取が増加したことや、オートメーション化が進んだことにより体を積極的に動かす機会が減少したことも大きな原因として考えられています。
糖尿病の診断
糖尿病は血糖値とHbA1c(ヘモグロビンA1c)検査により「糖尿病型」「境界型」「正常高値」「正常型」に分類されます。
このうち「糖尿病型」と診断される条件は、空腹時血糖値が126㎎/dl以上、もしくは食後血糖値が200㎎/dlであり、同時に測定したHbA1cが6.5%以上の場合。HbA1cのみの検査では糖尿病型の診断を行うことはできず、血糖値のみの検査の場合は別日に2回以上同条件の血糖値が認められた場合、糖尿病型と診断されます。
ただし、糖尿病の典型的症状である喉の渇き、多飲、多尿、体重減少などの症状や、糖尿病網膜症が確認された場合は1度の血糖値検査が糖尿病型を示していれば糖尿病と診断されます。
糖尿病の治療
糖尿病の治療は「血糖値のコントロール」を行い合併症によるQOL(生活の質)の低下を防ぐことが基本方針です。
血糖値コントロールには以下の治療方法が用いられます。
食事療法
糖尿病の食事療法で大切なことは一般的な健康のための食事のとり方と変わりはありません。
- よく噛んで食べる
- 三食規則正しく食べる
- 栄養バランスの偏りがないように食べる
- 満腹になる前(八分ほど)でやめる
- 就寝直前、深夜の食事は控える
また、1日の適正エネルギー量を把握しておくことで摂取カロリーのコントロールを行うことも大切です。1日の適正エネルギー量は以下の計算式から概算することができます。
「1日の適正エネルギー量=目標体重
×エネルギー係数 」
労作の強度 | エネルギー係数 |
---|---|
軽い労作 (大部分が座位の静的活動) |
25~30 (kcal/kg目標体重) |
普通の労作 (通勤・家事、軽い運動を含む) |
30~35 (kcal/kg目標体重) |
重い労作 (力仕事、活発な運動習慣 |
35~ (kcal/kg目標体重) |
例)身長170㎝のデスクワーク中心の生活をおくっている人の場合、目標体重は「1.7m×1.7×22=63.5㎏」となります。
エネルギー係数は「軽い労作=25~30」となることから、これらを式にあてはめると「63.5㎏×25~30=1587~1905㎉」となり、1日の摂取カロリーの目標値もこの数値内に収めることが望ましいとされています。
運動療法
糖尿病の運動療法では、有酸素運動とレジスタンス運動の併用が推奨されています。
有酸素運動とは、ウォーキングや水泳など多くの酸素を取り込みながら行う全身運動を指します。
レジスタンス運動とは、腹筋、背筋、ダンベル運動など自重や重りなどの負荷を加えながら行ういわゆる筋力トレーニングのことです。糖尿病治療では有酸素運動とレジスタンス運動どちらかというよりも併用して行う方が、より効果が高いことも報告されています。
有酸素運動の強度は、運動時心拍数が50歳未満で100~120拍/分、50歳以上で100拍/分の中等度の運動強度が推奨されています。感覚では「ややきつい」と感じるほどで、隣の人と息が上がりながらも会話ができるほどの強度が目安です。
運動時間は20分以上、運動頻度は週に3回以上の実施が推奨されており、糖代謝の改善持続時間が12~72時間であることを考えると運動未実施の日を2日以上連続させないよう注意する必要があります。
薬物療法
食事療法、運動療法を2~3ヶ月継続したのち思うような効果が得られなかった場合、薬物療法を用いることになります。
薬物療法では、高血糖状態、症状や病態によって、経口血糖降下薬や注射からインスリンやGLP-1受容体薬を投与する方法が選択されます。
経口血糖降下薬
経口血糖降下薬には様々な種類があり作用機序も異なります。
例えば、インスリンの分泌を増加させるスルホニル尿素薬、速攻型インスリン分泌薬。インスリンの効きを促進させるビグアナイド薬、チアゾリジン薬。糖の吸収と排泄を調節するα-グルコシダーゼ阻害薬などがあり合併症や症状により処方薬が決定されます。
インスリン療法
インスリンを直接補充する方法です。インスリン療法は1型糖尿病のイメージが強い治療方法ですが、2型糖尿病でも食事療法、運動療法、経口血糖降下薬による血糖コントロールが難しい場合に用いられることがあります。毎食前に打つタイプのものや1日に1度打つタイプのものなどがあります。
GLP-1受容体作動薬
インスリンの分泌促進、グルカゴン(血糖を上昇させるホルモン)の分泌を抑制させることでGLP-1という血糖を低下させるホルモンの働きを補完する注射薬です。基本的には週1回曜日を決めて注射を行います。
糖尿病治療薬一覧
分類 | 商品名 | 一般名 | 発売年月 |
---|---|---|---|
スルホニル 尿素薬 |
オイグルコン | グリベンクラミド | 1971.10 |
グリミクロン | グリクラジド | 1984.5 | |
アマリール | グリメピリド | 2000.4 | |
速効型インスリン 分泌促進薬 |
ファスティック スターシス |
ナテグリニド | 1999.8 |
グルファスト | ミチグリニド | 2004.5 | |
シュアポスト | レパグリニド | 2011.5 | |
DPP-4阻害薬 | ジャヌビア グラクティブ |
シタグリプチン | 2009.12 |
エクア | ビルダグリプチン | 2010.4 | |
ネシーナ | アログリプチン | 2010.6 | |
トラゼンタ | リナグリプチン | 2011.9 | |
テネリア | テネリグリプチン | 2012.9 | |
スイニー | アナグリプチン | 2012.11 | |
オングリザ | サキサグリプチン | 2013.7 | |
ザファテック | トレラグリプチン | 2015.5 | |
マリゼブ | オマリグリプチン | 2015.11 | |
GLP-1受容体 作動薬 |
リベルサス | セマグルチド | 2021.2 |
ビグアナイド薬 | グリコラン | メトホルミン | 1961.3 |
ジベトス | ブホルミン | 1972.2 | |
メトグルコ | メトホルミン | 2010.5 | |
チアゾリジン薬 | アクトス | ピオグリタゾン | 1999.12 |
αグルコシダーゼ 阻害薬 |
ベイスン | ボグリボース | 1994.9 |
セイブル | ミグリトール | 2006.1 | |
SGLT2阻害薬 | スーグラ | イプラグリフロジン | 2014.4 |
フォシーガ | タパグリフロジン | 2014.5 | |
ルセフィ | ルセオグリフロジン | 2014.5 | |
デベルザ | トホグリフロジン | 2014.5 | |
カナグル | カナグリフロジン | 2014.9 | |
ジャディアンス | エンパグリフロジン | 2015.2 | |
ミトコンドリア 機能改善薬 |
ツイミーグ | イメグリミン | 2015.2 |
糖尿病の予防や注意事項
糖尿病の予防に大切なことは、適正体重の維持と規則正しい食生活です。
適正体重は「身長(m)×身長(m)×22」で算出することができます。できる限り適正体重に近づけるように運動習慣を身に付けることも大切です。
規則正しい食事は、野菜中心の食事を三食しっかりと食べることからはじめましょう。食の欧米化が進行するなかで高脂肪食の過剰摂取は糖尿病の発症に大きく関与します。栄養バランスも考えながら健康的な食事をとり続けることが大切です。
また、糖尿病と診断された場合には、定期的に病院に通院することがとても大切です。定期的に血糖測定や検査を行い、治療を継続していくようにしてください。最近では自宅で簡易的に24時間の血糖を測定することも可能になりました(インスリン自己注射の方は保険適応)。ご自身の血糖の変動が気になる方は持続血糖モニター(CGM)を使いながら治療に活かしていいくことも可能です。
糖尿病の大規模臨床試験
糖尿病の大規模臨床試験のデータをご紹介いたします。日本人のデータもあり興味深い結果です。
都市近郊と農村部の糖尿病有病率
舟形スタディは、山形県舟形町(農村部)の住民(≧40歳)を対象とした糖尿病の有病率と、福岡県久山町(都市近郊)で行われた久山町研究の2型糖尿病有病率との比較が行われた大規模疫学研究です。
結論は、地方や農村部でも2型糖尿病有病率は10%あるが、都市近郊ではさらに高い有病率であることが報告されています。
厳格な血糖コントロールがもたらす合併症のリスク
UKPDSは英国で実施された、2型糖尿病者を対象に厳格血糖コントロールにより合併症の抑制ができるかを検討した大規模臨床試験です。
10年追跡の結果では、血糖コントロールにより糖尿病の三大合併症の網膜症、腎症、神経障害の細小血管リスクは低下し、さらに10年の追跡では心筋梗塞などの大血管リスクの抑制にも効果があることが報告されています。
生活習慣改善と糖尿病発症抑制との関係
DPPは米国で実施された、糖尿病高リスク例を対象とした生活習慣改善が糖尿病抑制に効果があるのかを調査した大規模臨床試験です。
結論は、生活習慣の改善を行った群では対照群と比較して糖尿病の発症率が58%減少。とくに減量は重要で、過体重者による減量は1㎏あたり平均16%の糖尿病発症リスクの低下につながることが報告されています。