高血圧とは?
心臓から全身へ血液が送りだされるときに血管へ掛かる圧力のことを血圧と言います。
収縮期血圧(上の血圧)は、心臓が収縮をして多くの血液が勢いよく送りだされるため、血管内への圧力が最も高くなるタイミングの血圧です。
一方、心臓が拡張をして全身から戻ってくる血液をため込むときに最小の圧力が掛かるタイミングの血圧を拡張期血圧(下の血圧)と言います。
現在、日本の推定高血圧者数は4,300万人と言われており、国民のおよそ3人に1人が高血圧患者という状況です。
高血圧の原因
高血圧の原因は「本態性高血圧症」と「二次性高血圧症」によって異なります。
本態性高血圧症
はっきりとした原因が解明されていない高血圧症を本態性高血圧症と言います。
高血圧症の90%が本態性高血圧症で、遺伝的要因や生活習慣などの環境的要因が関係しており、とくに以下は高血圧症の原因として関わりが深い要因です。
- 肥満
- 食塩の過剰摂取
- 喫煙
- 運動不足
- ストレス
- 遺伝
二次性高血圧症
二次性高血圧症は、血圧が高くなった原因として特定の病気が関わっている高血圧症のことを言います。
例えば、腎動脈が狭窄することで発症する腎血管性高血圧症や、副腎から血圧を上げるホルモンが過剰に分泌される原発性アルドステロン症などは二次性高血圧症を引き起こす代表的な疾患です。橋本病やバセドー病といった甲状腺機能も高血圧と関連があります。
高血圧の方の10%は二次性高血圧といわれますが、若い方では半数近くが二次性高血圧の可能性が高いといわれています。
二次性高血圧が疑わしい場合には採血検査などで診断を行い、高血圧を引き起こしている疾患の投薬治療や外科的治療などを行うことで高血圧の治療効果が期待できます。
そのほかにも、睡眠時無呼吸症候群に伴い高血圧となるケースも少なくありません。肥満は本態性高血圧の原因となりますが、睡眠時無呼吸症候群のリスクでもあります。日本人の骨格(顎が小さいなど)は睡眠時無呼吸になりやすい、特に肥満の方では本態性だけでなく睡眠時無呼吸症候群による二次性も関係しているかもしれないといえます。
高血圧の診断
日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室での収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合を高血圧と診断します。
ただし、自宅で測定をする家庭血圧では診察室血圧よりも5mmHg低い基準値となっています。
Ⅰ度高血圧を超えてくるときに治療を考えていきますが、家庭血圧が参考になるため血圧が高め、高血圧を指摘された際には自宅でも血圧測定することをおすすめします。
分類 | 診察室血圧 | 家庭血圧 | ||
---|---|---|---|---|
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
正常血圧 | <120 かつ <80 | <115 かつ <75 | ||
正常高値血圧 | 120-129 かつ <80 | 115-124 かつ <75 | ||
高値血圧 | 130-139 かつ/または 80-89 | 125-134 かつ/または 75-84 | ||
I度高血圧 | 140-159 かつ/または 90-99 | 135-144 かつ/または 85-89 | ||
II度高血圧 | 160-179 かつ/または 100-109 | 145-159 かつ/または 90-99 | ||
III度高血圧 | ≧180 かつ/または ≧110 | ≧160 かつ/または ≧100 | ||
(孤立性) 収縮期高血圧 |
≧140 かつ <90 | ≧135 かつ <85 |
白衣高血圧に注意
自宅での血圧は正常値にも関わらず、診察室では血圧が高くなってしまうことを白衣性高血圧と言います。比較的高齢女性に多く、診察高血圧の15~30%が白衣高血圧と言われています。
白衣高血圧は、普段は正常血圧であるため、とくに治療の必要はないとされてきました。しかし、高血治療ガイドライン2019では「白衣高血圧者は、非高血圧者と比べて脳心血管複合イベントリスクが高い。また持続性高血圧への高い移行リスクの報告もされている」としていることから、白衣高血圧に対しても注意深い観察が必要とされています。
高血圧の治療
高血圧の治療は、非薬物療法と薬物療法に分けることができます。
非薬物療法
非薬物療法は、薬を使わずに降圧を目指す方法のこと。高血圧と診断されたらまずは減塩やアルコール制限などの食事療法や、運動療法などの生活習慣に気をつけることで降圧をめざしていきます。
生活習慣の修正
以下は高血圧治療ガイドライン2019年の生活習慣の修正をまとめたものです。
減塩 | 食塩摂取量6g/日未満 |
---|---|
肥満 | BMI(体格指数)25.0㎏/㎡未満 |
アルコール 摂取 |
男性20~30mL/日以下 女性10~20 mL/日以下 |
運動 | 毎日30分以上 または週180分以上 |
食事パターン | 野菜や果物、多価不飽和脂肪酸を 積極的に摂取し、飽和脂肪酸や コレステロールを避ける |
禁煙 | 喫煙、受動喫煙を避ける |
その他 | 防寒、ストレスのコントロール |
薬物療法
非薬物療法だけでの降圧が困難である場合は降圧薬を使用した治療を行います。代表的な降圧薬と特徴をご紹介します。
カルシウム拮抗薬(CCB)
カルシウム拮抗薬(CCB:calcium blocker)は、末梢血管や冠動脈を広げることで血圧を下げる効果が期待できる降圧薬です。薬剤によっては高血圧症だけでなく狭心症の治療薬としても用いられることがあります。
ACE阻害薬
ACE阻害薬(ACEI:angiotensin converting enzyme inhibitor)、アンギオテンシン変換酵素阻害薬は、血管を収縮させて血圧の上昇を行う働きを担っているアンジオテンシンⅡという物質の働きを抑制することで血圧を下げる薬です。
ARB
ARB(angiotensin receptor blocker)、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、ACE阻害薬と同様にアンジオテンシンⅡに着目をした降圧薬で、アンジオテンシンⅡが各受容体に結合をすること自体を防ぐ降圧薬です。糖尿病や発症抑制や肥満の死亡率の低下などの報告が大規模臨床試験で行われるなど第一選択薬として幅広く使用される降圧薬です。
MRA
MRA(mineralocorticoid receptor antagonist)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬はアルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に結合するのを阻害する作用から降圧剤、心不全の薬としてつかわれる薬剤です。心不全の方では、標準治療としてACE阻害薬/ARBとβ遮断薬に合わせてMRAを加えた3剤が使われます。
α遮断薬
α遮断薬は、α1受容体を遮断し、血管平滑筋を弛緩させることにより血管を広げ血圧を下げる効果が期待できる降圧薬です。α遮断薬の代表的な副作用は、めまいやふらつきがあげられます。
β遮断薬
β遮断薬は、心臓にあるβ受容体に働き交感神経の興奮を抑制することで心臓の拍出量を減らし血圧を下げる効果が期待できる降圧薬です。脈が速い、心臓病がある方で多く使います。代表的な副作用は、めまいやふらつきがあげられます。
利尿薬
利尿薬は、体内の水分、ナトリウムを体外に排出することで血圧を下げる効果が期待できる降圧薬です。利尿薬の代表的な副作用は、脱水、低ナトリウム血症、低カリウム血症などがあげられます。
高血圧治療薬一覧
分類 | 商品名 | 一般名 | 発売年月 |
---|---|---|---|
カルシウム 拮抗薬 |
ノルバスク アムロジン |
アムロジピン | 1993.12 |
アテレック | シルニジピン | 1995.12 | |
アダラート | ニフェジピン | 1998.6 | |
カルブロック | アゼルニジピン | 2003.5 | |
ACE阻害薬 | レニベース | エナラプリル | 1986.7 |
ARB | ニューロタン | ロサルタン | 1998.8 |
ブロプレス | カンデサルタン | 1999.6 | |
ディオバン | バルサルタン | 2000.11 | |
オルメテック | オルメサルタン | 2004.1 | |
ミカルディス | テルミサルタン | 2005.1 | |
アジルバ | アジルサルタン | 2012.5 | |
ARNI | エンレスト | サクビトリル | 2020.8 |
MRA | セララ | エプレレノン | 2007.11 |
ミネブロ | スピロノラクトン | 2019.5 | |
α遮断薬 | カルデナリン | ドキサゾシン | 1990.4 |
β遮断薬 | インデラル | プロプラノロール | 1966.10 |
メインテート | ビソプロロール | 1990.11 | |
アーチスト | カルベジロール | 1993.5 | |
利尿薬 | フルイトラン | トリクロロメチアジド | 1960.11 |
アルダクトン | スピロノラクトン | 1963.11 | |
ラシックス | フロセミド | 1965.5 | |
ナトリックス | インダパミド | 1985.2 | |
ダイアート | アゾセミド | 1993.6 |
高血圧の予防や注意事項
ご自身で可能な高血圧予防は生活習慣の見直しが一番です。
塩分の取りすぎや飲酒を控えバランスの良い食事を心がけ、適度な運動や生活のなかでも意識的に歩くなど積極的に体を動かしましょう。
ストレスをため込み過ぎることも高血圧のリスク要因となるため、ストレス解消のための趣味探しなどを始めることも大切です。
高血圧の大規模臨床試験
高血圧に関する研究は、1911年にボストン郊外のフラミンガムで長期研究が開始されたフラミンガム研究や、日本では1961年に福岡県久山町の住民を対象として実施された久山町研究が代表的な疫学研究として知られています。
研究結果として、血圧120/80mmHgを超えると、血圧が高くなるにつれ心血管疾患の発症リスクが高くなることや、欧米人と比較すると日本人では心疾患よりも脳卒中の頻度が高いことなどが示されました。
心血管疾患抑制の重要性
高血圧患者は合併症をもつ方が多くいます。なかでも糖尿病の合併率は非高血圧者と比較しておよそ3倍高いことがわかっています。
高血圧、糖尿病ともに動脈硬化の原因、心血管疾患の重要な危険因子であるため、血圧をコントロールすることが心血管疾患の抑制にとても重要であることが報告されています。
合併疾患による使用降圧薬の使い分け
CASE-Jでは、降圧薬の「ARB(カンデサルタン)」と「Ca拮抗薬(アムロジピン)」の効果を比較した研究結果が発表されました。
どちらも良好な降圧効果が得られたと同時に、ARBはCa拮抗薬に比べて
- 腎機能低下例において腎機能の悪化を抑制
- 肥満患者の死亡率を抑制
- 心肥大退縮効果に優れる
- 糖尿病の発症を抑制
このような研究結果が示されていることから合併症による降圧薬の使い分けの重要性の高さが報告されています。
高齢者の降圧および合併症の管理
高齢者の降圧目標値を明らかにするために行われたJATOSでは、降圧の程度により脳血管疾患や腎機能障害、死亡に差がありませんでした。高齢者は高血圧以外にも病気をもっていることが多く、降圧管理だけでなく、合併症とあわせて管理することの重要性が明らかにされました。