2型糖尿病治療薬「イニシンク(アログリプチン・メトホルミン)」選択的DPP-4阻害薬/ビグアナイド系薬配合剤

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イニシンクとは?

イニシンクの写真

イニシンク(一般名:アログリプチン安息香酸塩・メトホルミン塩酸塩)は、2種類の血糖降下薬を含む配合剤です。含まれている成分のうち、一つはDPP-4阻害薬のアログリプチンで、もう一つはビグアナイド系薬のメトホルミンです。
アログリプチンは、食事の刺激により腸管から血液中に分泌されるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)を不活性化するDPP-4という酵素の活性を阻害することにより、GLP-1の血中濃度を上昇させ、糖濃度依存的に膵臓からのインスリン分泌を促進して血糖コントロールを改善します。
一方、メトホルミンは肝臓における糖の生成をおさえたり、筋肉や脂肪組織における糖の取り込みを促進したりすることでインスリン抵抗性を改善し、血糖を低下させます。

イニシンクの特徴

効能効果・用法用量

イニシンクは2型糖尿病に適応があります。ただし、投与できるのはアログリプチンおよびメトホルミンの併用による治療が適切と判断される場合に限られます。
通常、成人には1日1回1錠(アログリプチン/メトホルミンとして25mg/500mg)を食直前または食後に投与します。

臨床成績

非薬物療法(食事療法+運動療法)に加えてメトホルミン単剤治療で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病の方を対象とした臨床試験(試験期間12週間)では、アログリプチンを追加投与することでHbA1cが0.64%減少しました。
また、非薬物療法(食事療法+運動療法)に加えてアログリプチン単剤治療で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病の方を対象とした臨床試験(試験期間24週間)では、メトホルミンを追加投与することでHbA1cが0.49~0.60%減少しました。

イニシンクを服用する上での注意点

イニシンクを服用できない方

以下に該当する場合は、イニシンクの服用が禁忌とされています。

  • 乳酸アシドーシスのリスクが高い以下の場合(メトホルミンにより乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。)
  • 乳酸アシドーシスの既往がある場合
  • 重度の腎機能障害がある場合、または透析(腹膜透析を含む)を受けている場合
  • 重度の肝機能障害がある場合
  • 心血管系、肺機能に高度の障害(ショック、心不全、心筋梗塞、肺塞栓など)がある場合、およびその他の低酸素血症をともないやすい状態にある場合
  • 脱水を起こしている場合または脱水が懸念される場合(下痢、嘔吐などの胃腸障害がある場合、経口摂取が困難な場合など)
  • 過度のアルコール摂取がある場合
  • 重症ケトーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡、1型糖尿病の場合(輸液、インスリンによるすみやかな高血糖の是正が必須であるため、イニシンクの投与は適しません。)
  • 重症感染症、手術前後、重篤な外傷がある場合(インスリン注射による血糖管理が望まれるため、イニシンクの投与は適しません。また、メトホルミンによって乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。)
  • 栄養不良状態、飢餓状態、衰弱状態、脳下垂体機能不全または副腎機能不全がある場合(低血糖を起こすおそれがあります。)
  • 妊娠中または妊娠している可能性がある場合(動物を対象とした試験で、メトホルミンは催奇形性などが報告されています。また、乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。さらに、アログリプチンは動物を対象とした試験で胎盤通過が報告されています。)
  • イニシンクの成分またはビグアナイド系薬剤に対して過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)

服用に注意が必要な方

以下の場合はイニシンクの禁忌には該当しませんが、注意が必要です。

  • 低血糖を起こすおそれがある以下の場合(イニシンクの服用で低血糖の発現リスクが高くなります。)
  • 不規則な食事摂取や食事摂取量の不足がある場合
  • 激しい筋肉運動を行う場合
  • 感染症がある場合(メトホルミンにより乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。)
  • 腹部手術の既往または腸閉塞の既往がある場合(アログリプチンにより腸閉塞を起こすおそれがあります。)

その他、腎機能障害や肝機能障害がある場合などもイニシンクの服用には注意が必要です(参照:特定の患者さまへの使用に関して)。

イニシンクの副作用

おもな副作用として、胃腸障害や便秘、肝機能異常、体のだるさなどが報告されています。
また、重大な副作用として、乳酸アシドーシス、低血糖、急性膵炎、肝機能障害や黄疸、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、横紋筋融解症、腸閉塞、間質性肺炎、類天疱瘡などが報告されています。
重大な副作用の発生頻度は明らかになっていませんが、下記のような症状があらわれた場合は適切な処置を行ったり受診したりしてください。

乳酸アシドーシス 悪心・嘔吐、体のだるさ、
筋肉痛、過呼吸
低血糖 めまい、冷や汗、
脱力感、動悸、手足のふるえ、
強い空腹感、意識の低下
急性膵炎 持続的な激しい上腹部の痛み、
腰や背中の痛み、腹部の張り、
吐き気、嘔吐
肝機能障害、黄疸 食欲不振、全身のだるさ、
皮膚や白目が黄色くなる
皮膚粘膜眼症候群
(Stevens-Johnson症候群)、
多形紅斑
発熱、体のだるさ、
眼の充血やただれ、
唇や口内のただれ、
関節やのどの痛み
横紋筋融解症 筋肉痛、脱力感、
こわばり、しびれ、赤褐色の尿
腸閉塞 ひどい便秘、ガスが出ない、
腹部の張り、持続的な腹痛、嘔吐
間質性肺炎 空咳、呼吸困難、発熱
類天疱瘡 水疱、びらん、紅斑

日常生活における注意点

他の治療薬との併用に関して

添付文書上、イニシンクとの併用が禁忌となっている薬剤はありません。しかし、過度のアルコール摂取は乳酸アシドーシスをまねくおそれがあるため、禁忌とされています。
その他、併用に注意が必要な薬剤は以下のとおりです。他の医療機関で下記の薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。また、他の医療機関を受診する際はイニシンクの服用を必ず伝えてください。

  • ヨード造影剤(CT検査などで使用する薬剤)、腎毒性の強い抗生物質(ゲンタマイシンなど):併用により乳酸アシドーシスを起こすことがあります。
  • 利尿作用を有する薬剤(利尿薬、SGLT2阻害薬(糖尿病薬)など):脱水により乳酸アシドーシスを起こすことがあります。
  • 糖尿病用薬:血糖降下作用が相加的に増強され、低血糖を起こすおそれがあります。
  • ピオグリタゾン塩酸塩(2型糖尿病の治療薬):併用により循環血漿量が増加し、むくみが発現するおそれがあります。
  • 血糖降下作用を増強する薬剤(例:β遮断薬(高血圧や心不全などの治療薬)、サリチル酸剤(抗血小板薬など)、モノアミン酸化酵素阻害薬(パーキンソン病などの治療薬)、フィブラート系薬剤(高脂血症の治療薬)、ワルファリン(抗血栓薬)など):血糖降下作用が増強されるおそれがあります。
  • 血糖降下作用を減弱する薬剤(例:副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、アドレナリン、卵胞ホルモン、利尿薬、ピラジナミド(抗結核薬)、イソニアジド(抗結核薬)、ニコチン酸、フェノチアジン系薬剤(抗精神病薬)など):血糖降下作用が減弱するおそれがあります。
  • シメチジン(胃潰瘍などの治療薬)、ドルテグラビル(抗ウイルス薬)、ビクテグラビル(抗ウイルス薬)、バンデタニブ(悪性腫瘍の治療薬)など:メトホルミンの排泄が阻害され、メトホルミンの作用が増強されるおそれがあります。

特定の患者さまへの使用に関して

腎機能障害がある方への使用

腎機能障害があるケースでは、排泄が減少してメトホルミンの血中濃度が上昇するため、乳酸アシドーシスなどの発現リスクが高くなるおそれがあります。また、アログリプチンの血中濃度が上昇します。
そのため、重度の腎機能障害がある場合または透析(腹膜透析)を行っている場合は、イニシンクの投与が禁忌となっています。
また、中等度の腎機能障害がある場合はイニシンクではなく各単剤を併用し、必要に応じて減量を検討します。
軽度の腎機能障害がある場合もメトホルミンによる重篤な乳酸アシドーシスをまねくことがあるため、状態に注意しながら投与を進めます。

肝機能障害がある方への使用

肝機能障害があると乳酸の代謝能が低下し、乳酸アシドーシスの発現リスクが高くなるおそれがあります。
そのため、重度の肝機能障害がある場合はイニシンクの投与が禁忌となっています。
軽度~中等度の肝機能障害がある場合もメトホルミンによる重篤な乳酸アシドーシスをまねくことがあるため、状態に注意しながら投与を進めます。

妊娠中の方への使用

妊娠中の方や妊娠している可能性のある方には、イニシンクの投与が禁忌となっています。
イニシンクの成分であるメトホルミンは、動物を対象とした試験で胎児への移行が報告されており、一部の動物では催奇形性も報告されています。また、妊娠中は乳酸アシドーシスを起こしやすいことが知られています。
さらに、アログリプチンは動物を対象とした試験で胎盤通過が報告されています。

授乳中の方への使用

イニシンクの成分であるアログリプチンおよびメトホルミンは、動物を対象とした試験で乳汁中への移行が報告されています。
そのため、授乳中の方については、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討します。

お子さまへの使用

イニシンクは、小児などを対象とした臨床試験を実施していません。
ご家庭ではお子さまの誤服用を防ぐため、保管場所などにご注意ください。

ご高齢の方への使用

高齢の方では腎機能・肝機能などが低下していることが多く、脱水のリスクも高めです。これらの状態では乳酸アシドーシスを起こしやすいため、検査値や状態を確認しながら慎重に治療を進めます。

ヨード造影剤検査を受ける際の注意点

イニシンクをヨード造影剤と併用すると、メトホルミンの排泄が低下して乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。そのため、ヨード造影剤検査を受ける場合は、緊急時を除いてあらかじめイニシンクの投与を一時的に中止する必要があります。また、ヨード造影剤投与後48時間はイニシンクの投与を控えなければなりません。
したがって、ヨード造影剤検査を予定している場合は、主治医にイニシンクの服用を伝えてください。

低血糖に関する注意点

イニシンクの服用で血糖が低くなり過ぎると、低血糖症状があらわれることがあります。そのため、高所での作業や自動車の運転など危険をともなう作業をする際は、低血糖の発現に特に注意してください。
万が一、低血糖の症状があらわれたら、すぐにブドウ糖や砂糖を含む飲食物などを摂取してください。
なお、糖分を摂っても症状が回復しない場合はすみやかに受診してください。また、症状が回復した場合でも、次回受診日には低血糖症状があらわれたことを必ず報告してください。

イニシンクの患者負担・薬価について

イニシンク配合錠の1錠あたりの薬価は141.6円です。
ただし、患者さまにご負担いただく薬剤費は保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがイニシンク配合錠を1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は1274.4円になります(薬剤費のみの計算です)。

よくあるご質問

副作用の「乳酸アシドーシス」とはどのようなものですか?

乳酸アシドーシスとは、血液中の乳酸が増加して血液が酸性になった状態です。乳酸アシドーシスのリスクが高いのは、肝臓や腎臓、心臓に疾患がある場合、脱水状態の場合、アルコールの過剰摂取がある場合、感染症に罹患している場合などです。
重篤な乳酸アシドーシスを起こすと生命に危険がおよぶこともあるため、悪心や嘔吐、倦怠感、原因不明の筋肉痛、過呼吸などが見られた場合はすぐにイニシンクの服用を中止して受診してください。

体調が悪いときは、イニシンクの服用をやめるべきですか?

シックデイ(発熱、下痢、嘔吐、食欲不振で食事ができないときなど)は、脱水で乳酸アシドーシスが発現しやすくなります。そのため、イニシンクの服用をいったんやめ、すぐに受診あるいは連絡してください。
特に以下の場合は、すみやかに連絡・受診してください。

  • 下痢・嘔吐が続くとき
  • 食事・水分が摂れないとき
  • 高熱が2日以上続くとき
  • 著しい高血糖や低血糖が続くとき
  • 意識レベルが低下したとき
イニシンクを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?

イニシンクを飲み忘れた場合は、気がついたときに食事に合わせて1回分を服用してください。低血糖のおそれがあるので、激しい運動をしたあとや空腹時の服用は避けてください。
なお、2回分を一度に飲むのはやめてください。服用量が多くなると、副作用が発現するおそれがあります。

 

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