糖尿病治療薬「アクトス(ピオグリタゾン)」インスリン抵抗性改善薬

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アクトスとは?

アクトスの写真

アクトス(一般名:ピオグリタゾン塩酸塩)は、肝臓や筋肉、脂肪組織などにおけるインスリン感受性を高める薬剤です。インスリン抵抗性を軽減し、肝臓における糖の産生を抑制し、末梢組織における糖の利用を高めて血糖を低下させます。
なお、「アクトス(ACTOS)」という名称は、「インスリン感受性(Insulin Sensitivity)に作用(Act On)する薬剤=Act On Insulin Sensitivity」に由来します。

アクトスの特徴

適応疾患・用法用量

アクトスは2型糖尿病に適応があります。
ただし、非薬物療法(食事療法・運動療法)や薬物治療で十分な効果が得られず、インスリン抵抗性が推定される場合に限って使用できます。
用法用量は、併用している薬剤により若干異なります(下参照)。

  • 非薬物療法(食事療法+運動療法)を行っている場合、非薬物療法に加えてスルホニルウレア剤・α-グルコシダーゼ阻害薬・ビグアナイド系薬剤を使用している場合
    →通常、成人には15~30mgを1日1回朝食前または朝食後に投与する。なお、性別、年齢、症状により適宜増減するが、45mgを上限とする。
  • 非薬物療法に加えてインスリン製剤を使用する場合
    →通常、成人には15mgを1日1回朝食前または朝食後に投与する。なお、性別、年齢、症状により適宜増減するが、30mgを上限とする。

血糖改善効果や治療上の特徴

アクトスは、1日1回の投与でインスリン抵抗性を改善して血糖改善効果を示します。
2 型糖尿病の方を対象とした臨床試験では、総合血糖改善度が中等度以上と評価された人が半数以上となっています。また、1年以上にわたって安定した血糖コントロールが得られることが明らかになっており、長期間使用しても作用の減弱はみられません。
また、膵臓からのインスリン分泌を増加させることなく、血糖降下作用を示すのもアクトスの特徴の一つです。

アクトスを服用する上での注意点

アクトスを服用できない方

以下に該当する場合は、アクトスの服用が禁忌とされています。

  • 心不全の場合および心不全の既往歴がある場合(動物を対象とした試験で心重量の増加が報告されており、臨床的にも心不全を増悪あるいは発症したとの報告があります。)
  • 重症ケトーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡、1型糖尿病の場合(輸液やインスリンによるすみやかな高血糖の是正が必須となるため、アクトスの使用は適しません。)
  • 重篤な肝機能障害がある場合(アクトスはおもに肝臓で代謝されるため、蓄積するおそれがあります。)
  • 重篤な腎機能障害がある場合(アクトスは腎臓から排泄されるため、重篤な腎機能障害がある場合は使用できません。)
  • 重症感染症や手術前後、重篤な外傷がある場合(インスリン注射による血糖管理が望まれるため、アクトスの使用は適しません。)
  • アクトスの成分に過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
  • 妊娠中または妊娠している可能性がある場合(動物を対象とした試験で、親動物や胎児の死亡などが報告されています。)

その他、膀胱がん治療中の方はアクトスの服用を避けることとされています。

服用に注意が必要な方

以下の場合は、アクトスの服用に注意が必要です。

  • 心不全発症のおそれがある心疾患(心筋梗塞・狭心症・心筋症・高血圧性心疾患など)がある場合(循環血漿量の増加により、心不全の発症をまねくおそれがあります。)
  • 低血糖を起こすおそれがある以下の場合
  • 脳下垂体機能不全または副腎機能不全
  • 栄養不良状態、飢餓状態、不規則な食事摂取、食事摂取量の不足、衰弱状態
  • 激しい筋肉運動
  • 過度のアルコール摂取者

その他、腎機能障害がある方・肝機能障害がある方・高齢の方なども、アクトスの服用には注意が必要です(参照:特定の患者さまへの使用に関して)。

アクトスの副作用

おもな副作用として、貧血、血圧上昇、動悸、発疹、そう痒、悪心嘔吐、胃部不快感、めまい、ふらつきなどが報告されています。
また、重大な副作用として、心不全、肝機能障害、低血糖、横紋筋融解症、間質性肺炎などが報告されています。アクトスの服用にともない下記のような症状があらわれた場合は、適切な処置をしたり受診して治療を受けたりしてください。

心不全 ひどいむくみ、急激な体重増加、息切れ、動悸
浮腫 ひどいむくみ、急激な体重増加
肝機能障害、黄疸 食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる、全身のだるさ
低血糖 めまい、冷や汗、脱力感、動悸、手足のふるえ、異常な空腹感
横紋筋融解症 脱力感、筋肉痛、赤褐色の尿
間質性肺炎 発熱、空咳、呼吸が苦しい
胃潰瘍の再燃 みぞおちの痛み、吐き気、黒色便

日常生活における注意点

他の治療薬との併用に関して

添付文書上、アクトスとの併用が禁忌となっている薬剤はありません。しかし、併用に注意が必要な薬剤はいくつかあります。他の医療機関で下記のような薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。

  • 糖尿病薬:血糖降下作用が相加的に増強され、低血糖を起こすおそれがあります。
  • 血糖降下作用を増強する薬剤(例:β遮断薬(高血圧や心不全などの治療薬)、サリチル酸剤(抗血小板薬など)、モノアミン酸化酵素阻害薬(パーキンソン病などの治療薬)、フィブラート系薬剤(高脂血症の治療薬)、ワルファリン(抗血栓薬)など):血糖降下作用が増強されるおそれがあります。
  • 血糖降下作用を減弱する薬剤(例:副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、アドレナリンなど):血糖降下作用が減弱されるおそれがあります。
  • リファンピシン(結核などの治療薬)など:アクトスの代謝が促進され、十分な効果が得られないおそれがあります。

特定の患者さまへの使用に関して

肝機能障害や腎機能障害がある方への使用

アクトスは、おもに肝臓で代謝されますが、一部は腎臓でも代謝されます。そして、代謝物は腎臓から排泄されます。
そのため、重度の腎機能障害や肝機能障害がある方については、アクトスの使用が禁忌とされています。また、重篤ではない場合であっても、腎機能障害・肝機能障害がある場合は慎重に投与することとされています。
このようなことから、腎臓や肝臓に障害がある場合は、検査値の変化などにも留意しながら治療を進めていきます。

妊娠中の方への使用

アクトスは、動物を対象とした試験で胎児の死亡率の高値や出生児の生存率の低値が報告されています。また、別の試験では、親動物の死亡や流産、胎児死亡率の高値が報告されています。
したがって、妊娠中の方や妊娠している可能性のある方については、アクトスの使用が禁忌とされています。

授乳中の方への使用

動物を対象とした試験で、アクトスは乳汁中への移行が確認されています。
そのため、授乳中の方にアクトスを使用する場合は、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討します。

お子さまへの使用

アクトスは、小児などを対象とした臨床試験を実施していません。
ご家庭ではお子さまの誤服用を防ぐため、保管場所などにご注意ください。

ご高齢の方への使用

高齢の方では、一般的に生理機能が低下しています。したがって、副作用の発現に注意し、経過を十分に観察しながら慎重に投与を行います。

むくみに関する注意点

アクトスの副作用として、むくみが生じることがあります。重篤なむくみは心機能に影響をおよぼし、息切れや動悸などの症状がみられることもあります。
特に、心筋梗塞や狭心症、心筋症、高血圧性心疾患などを合併している方・インスリンを併用中の方は注意が必要です。
アクトスの服用にともない、ひどいむくみや急激な体重増加、労作時の息切れや動悸が生じた場合は、すみやかに受診してください。

アクトスと膀胱がんとの関係

アクトスの長期使用で、膀胱がんの発生リスクが高まる可能性が指摘されています。そのため、膀胱がん治療中の方はアクトスを服用できません。また、膀胱がんと診断されたことがある場合は、診察時に必ず伝えてください。
なお、膀胱がんの早期発見のため、血尿や頻尿、排尿痛などの症状がある場合は、すみやかに受診してご相談ください。

低血糖に関する注意点

アクトスを服用するとインスリンに対する感受性が高まるため、低血糖を起こす可能性があります。特に、他の血糖降下薬と併用する際は、低血糖の発現に注意が必要です。低血糖が疑われる症状があらわれたら、すぐにブドウ糖や砂糖を含む飲料水などを摂取しましょう。ブドウ糖の場合、摂取量の目安は10~15g程度です。
なお、糖分を摂っても症状が回復しない場合は、すみやかに受診してください。症状が回復した場合でも、次回受診日には低血糖症状があらわれたことを必ず報告してください。

アクトスの患者さま負担・薬価について

アクトスには普通錠とOD錠(口腔内崩壊錠)があり、それぞれ15mg・30mgの2規格があります。各剤型・規格の薬価は以下のとおりです。

フアクトス錠15mg
アクトスOD錠15mg
35.9円/錠
アクトス錠30mg
アクトスOD錠30mg
70.8円/錠

患者さまにご負担いただく薬剤費は、保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがアクトス錠30mgを1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は637.2円になります(薬剤費のみの計算です)。
ジェネリック薬を使用すれば、さらに薬剤費をおさえられます。

よくあるご質問

アクトスを飲めば、食事療法や運動療法はやらなくてもいいですか?

糖尿病など生活習慣病を改善するためには、薬を服用している場合でも食事療法や運動療法を続ける必要があります。特に2型糖尿の場合、食生活の見直しや運動の継続はとても大切です。非薬物療法(食事療法・運動療法)に取り組むことは、薬の服用量を減らすことにもつながります。
とはいえ、極端な食事制限や激しい運動は低血糖をまねくおそれがあるため、避けなければなりません。無理のない範囲で、非薬物療法を続けるようにしてください。

膀胱がんのリスクがあると聞いて不安です。アクトスを飲むのをやめていいですか?

欧米の疫学研究では、アクトスを2年以上服用すると膀胱がんになるリスクが若干上昇することが報告されています。ただし、この結果は10年間の最終解析では否定されています。したがって、アクトスの服用が膀胱がんの発生に直結するものではないということを、まずご理解ください。
アクトスの服用に不安がある場合は、診察時にご相談ください。そして、自己判断で服用を中止しないでください。糖尿病を放置すると、さまざまな合併症(神経障害、網膜症、糖尿病性腎症など)をまねくおそれがあるため大変危険です。

アクトスを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?

アクトスは、朝食前または朝食後に服用することになっています。昼までに飲み忘れに気付いた場合は、できるだけ早く1回分を服用してください。ただし、激しい運動のあとや空腹時は低血糖のおそれがあるため、服用しないでください。なお、飲み忘れがあった場合でも、絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

 

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