アーチストとは?
アーチスト(一般名:カルベジロール)は、αβ遮断薬と呼ばれる系統の薬剤です。主要な作用は、交感神経のβ受容体を遮断して心臓の過剰な働きをおさえることですが、α1受容体を遮断して血管を拡張する作用も併せ持つため、高血圧症や狭心症、慢性心不全、心房細動の治療に用いられます。
なお、「アーチスト(Artist)」という名称は「Artist(芸術家、名人・達人)」に由来し、「高血圧症および狭心症を創造的かつ個性的に治療する」という意味で名付けられたそうです。
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アーチストの特徴
アーチストは血管拡張作用を有する薬剤で、長時間安定した降圧効果を示すほか、主要臓器の血流量を維持する働きもあります。また、心機能を改善する作用があることから、慢性心不全などにも適応があります。さらに、α受容体遮断作用による骨格筋への血流改善作用でインスリン抵抗性の改善にも効果が期待できるため、糖尿病合併症例にも良いとされています。ただし、β2受容体(気管支拡張に関与する受容体)を阻害する作用もあるため、気管支ぜんそくなどを合併している方には使用できません。
適応疾患・用法用量
アーチストは、軽症~中等症の本態性高血圧症、腎実質性高血圧症、狭心症、虚血性心疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全、頻脈性心房細動に適応があります。ただし、適応疾患は規格により異なります。各適応疾患の用法用量は下記のとおりです。
- 本態性高血圧症、腎実質性高血圧症(錠10mg、錠20mgのみ)
通常、成人には10〜20mgを1日1回投与します。ただし、投与量は年齢、症状により適宜増減します。
- 狭心症(錠10mg、錠20mgのみ)
通常、成人には20mgを1日1回投与します。ただし、投与量は年齢、症状により適宜増減します。
- 虚血性心疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全(ACE阻害薬、利尿薬、ジギタリス製剤などの基礎治療を受けている場合)(錠1.25mg、錠2.5mg、錠10mgのみ)
通常、成人には1回1.25mg、1日2回食後投与で治療を開始します。忍容性が認められる場合は1週間以上の間隔で段階的に増量し、忍容性がない場合は減量します。用量の増減を段階的に行ったあとは、維持量として通常1回2.5〜10mgを1日2回食後に投与します。
なお、年齢、症状により、使用開始時の用量をさらに低用量にすることもあります。また、維持量も適宜増減します。
- 頻脈性心房細動(錠2.5mg、錠10mg、錠20mgのみ)
通常、成人には1日1回5mgから投与を開始し、効果が不十分な場合は1日1回10mg、1日1回20mgへと段階的に増量します。投与量は年齢、症状により適宜増減しますが、最大投与量は1日1回20mgとなっています。
効果持続時間・効果発現時間
アーチストは、1日1回の投与で24時間安定した降圧効果・心拍数減少効果を示します。ただし、慢性心不全に対しては、急激な血中濃度の上昇をおさえ、かつ安定した血中濃度を維持するために、1日2回、食後に投与することとされています。
なお、アーチストの効果発現時間は投与後約1時間と報告されています。
アーチストを服用する上での注意点
アーチストを服用できない方
以下の方は、アーチストを服用できません。
- 気管支喘息、気管支痙れんのおそれのある方(喘息症状の誘発・悪化をまねくおそれがあります。)
- 糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性アシドーシスのある方(心収縮力を抑制する作用が増強されるおそれがあります。)
- 高度の徐脈(著しい洞性徐脈)のある方、重度の心臓の刺激電動障害(房室ブロック(II、III度)、洞房ブロック)のある方(症状が悪化するおそれがあります。)
- 心原性ショックのある方(循環不全症が悪化するおそれがあります。)
- 強心薬または血管拡張薬を静脈内投与する必要がある心不全の方、非代償性の心不全の方(心収縮力抑制作用により、心不全が悪化するおそれがあります。)
- 肺高血圧による右心不全のある方(心拍出量がおさえられ、症状が悪化するおそれがあります。)
- 未治療の褐色細胞腫の方(アーチストを単独投与すると、急激に血圧が上昇するおそれがあります。)
- 妊娠している方または妊娠の可能性がある方(妊娠中の投与に関する安全性が確立されていません。)
- アーチストの成分に対して過敏症の既往歴がある方(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
アーチストの服用に注意が必要な方
以下の場合は、アーチストの服用に注意が必要です。
- 特発性低血糖症、コントロール不十分な糖尿病、絶食状態、栄養状態が不良の方(低血糖症状を起こしやすく、かつ、アーチストの影響で症状があらわれにくくなるため、血糖値の変化に注意が必要です。)
- 糖尿病を合併している慢性心不全の方(血糖値が変動するおそれがあります。)
- 房室ブロック(I度)のある方、徐脈のある方(症状が悪化するおそれがあります。)
- レイノー症候群、間欠性跛行症など末梢循環障害のある方(末梢血管の拡張が抑制され、症状が悪化するおそれがあります。)
- 過度に血圧の低い方(血圧がさらに低下するおそれがあります。)
その他、重篤な肝機能障害のある方・腎機能障害のある方・ご高齢の方も、アーチストの服用には注意が必要です(参照:特定の患者様への使用に関して)。
アーチストの副作用
おもな副作用として、めまい、頭痛、徐脈、低血圧、悪心などが報告されています。
また、重大な副作用として、高度な徐脈や完全房室ブロック、ショック、アナフィラキシーなどが報告されています。重大な副作用の発生頻度は明らかになっていませんが、下記のような症状があらわれた場合はすぐに受診して、適切な治療を受けてください。
日常生活における注意点
他の治療薬との併用に関して
添付文書上、アーチストとの併用が禁忌とされている薬剤はありません。しかし、併用に注意が必要な薬剤はいくつかあります。他の医療機関で以下の薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。
- 交感神経系に対して抑制的に作用する薬剤:徐脈や血圧低下などがあらわれるおそれがあります。
- Ca拮抗薬(高血圧症などの治療薬):心不全や低血圧を引き起こすことがあります。
- ヒドララジン塩酸塩(高血圧症の治療薬):アーチストの作用が増強されるおそれがあります。
- クロニジン塩酸塩(高血圧症の治療薬):クロニジンを投与中止したあとにリバウンド現象(急激な血圧上昇)が増強されるおそれがあります。
- クラスI抗不整脈薬(ナトリウムチャネル遮断薬):徐脈、低血圧などがあらわれることがあります。
- アミオダロン塩酸塩(不整脈の治療薬):アーチストの血中濃度が上昇して、徐脈などがあらわれるおそれがあります。
- シクロスポリン(免疫抑制薬):シクロスポリンの血中濃度が上昇するおそれがあります。
- リファンピシン(結核などの治療薬):アーチストの血中濃度が下がり、作用が減弱するおそれがあります。
- シメチジン(胃潰瘍や逆流性食道炎などの治療薬)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(うつ病やパニック障害などの治療薬):アーチストの血中濃度が上がり、作用が増強されるおそれがあります。
- ジギタリス製剤(心不全や頻脈などの治療薬):徐脈や房室ブロックなどがあらわれることがあります。また、ジギタリス製剤の血中濃度が上昇して中毒症状があらわれるおそれがあります。
- 利尿降圧薬:降圧作用が増強されることがあります。
- 交感神経刺激薬:血圧が上昇するおそれがあります。
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬:アーチストの降圧作用が減弱するおそれがあります。
特定の患者さまへの使用に関して
重篤な肝機能障害・腎機能障害がある方への使用
アーチストを重篤な肝機能障害のある方や腎機能障害のある方に投与すると、血中濃度が上昇するおそれがあります。また、肝機能・腎機能が悪化するおそれも指摘されています。
そのため、重篤な肝機能障害・腎機能障害のある方にアーチストを使用する場合は、投与量を減らしたり投与間隔を空けたりするなどして、慎重に投与を行います。
気管支喘息のある方への使用
アーチストのβ遮断作用は非選択的で、心臓のβ1受容体だけでなく気管支平滑筋のβ2受容体も遮断します。アーチストのβ1・β2受容体遮断作用の効力比はおよそ7:1とされていますが、気管支筋が収縮すると喘息症状の誘発・悪化をまねくおそれがあります。
そのため、アーチストは気管支喘息や気管支痙れんのおそれのある方には投与できません。
妊娠中の方への使用
アーチストを妊娠中の方に投与した場合の安全性は確立していません。また、妊娠前および妊娠初期の動物を対象とした試験では、臨床用量の約900倍の投与で黄体数の減少や骨格異常の増加が報告されています。
このようなことから、アーチストを妊娠中の方や妊娠している可能性のある方へ使用するのは禁忌とされています。
授乳中の方への使用
アーチストがヒトの乳汁中に移行するかは明らかになっていません。しかし、動物を対象とした試験では乳汁中に移行することが報告されています。
したがって、アーチスト投与中は授乳を避ける必要があります。
お子さまへの使用
国内において、アーチストは小児などに対する使用経験が少なく、安全性・有効性も確立されていません。そのため、投与対象は「成人」とされています。
もっとも、海外ではアーチストを小児の心不全に使用する場合もあります。そのため、国内でも治療経験が十分にある専門医のもとで、アーチストの使用が検討されることがあります。
ご高齢の方への使用
アーチストはおもに肝臓で代謝されますが、ご高齢の方では肝機能が低下していることが多いため、血中濃度が上昇するリスクが高くなります。また、ご高齢の方は過度の降圧で脳梗塞などをまねくおそれもあります。
そのため、ご高齢の方へアーチストを使用する際は、低用量から治療をスタートするなどして効果や症状を観察しながら慎重に投与を行います。
アーチストの患者さま負担・薬価について
アーチストには1.25mg・2.5mg・10mg・20mgの4規格があります。各規格の薬価は以下のとおりです。
患者さまにご負担いただく薬剤費は、保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがアーチスト錠10mgを1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は230.4円になります(薬剤費のみの計算です)。
なお、アーチスト錠1.25mgはジェネリック薬と薬価差がありません。それ以外の規格については、ジェネリック薬の利用で薬剤費をおさえられます。
よくあるご質問
- アーチストが1日2回で処方されています。知人は1日1回で処方されているので、私も1日1回で飲みたいのですが……。
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アーチストは、治療目的により1日の服用回数が変わってきます。例えば、高血圧症や狭心症、心房細動の治療で処方されている場合は1日1回ですが、慢性心不全の治療で処方されている場合は1日2回になります。
そして、1日2回でアーチストを処方されている方が、自己判断で1日分のアーチストを1度に服用してしまうと、急激に血中濃度が上がって徐脈や低血圧などの副作用が生じやすくなります。
健康被害を防ぐためにも、指示通り1日2回で服用してください。
- 血圧も心臓の調子もいいので、アーチストを飲むのをやめていいですか?
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アーチストなどβ遮断作用を有する薬を急に中止すると、狭心症や心筋梗塞、不整脈などが誘発されたり、一時的に血圧が上昇することがあります。そのため、自己判断でアーチストの服用を中断してはいけません。
なお、アーチストを休薬する場合は、心臓や血圧などへの悪影響を最小限におさえるため、時間をかけて少しずつ減らしていきます。
- アーチストを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?
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アーチストを飲み忘れたときは、気が付いた時点ですぐに1回分を飲んでください。ただし、次に飲む時間が近いときは1回分飛ばし、次の服用時間に1回分を服用してください。その際、絶対に2回分を一度に飲んではいけません。服用量が多すぎると、副作用が発生するリスクが高くなります。
- アーチストを服用していて、脈拍数が少なくなり過ぎたら受診するように言われています。どれくらいの脈拍数が目安ですか。
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アーチストを服用すると、副作用として徐脈があらわれることがあります。
徐脈で受診が必要となるのは、1分間の脈拍数が50回以下になった場合や、息が苦しい・胸が苦しいなどの症状がある場合です。
徐脈が高度の場合は、アーチストを減量あるいは中止して、脈拍数を整える薬で治療することもあります。
記事制作者
木村眞樹子
東京女子医科大学卒業。循環器内科専門医、内科、睡眠科において臨床経験を積む。
東洋医学を取り入れた漢方治療にも対応。
オンライン診療に積極的に取り組む3児の母。