糖尿病治療薬「トラゼンタ(リナグリプチン)」胆汁排泄型選択的DPP-4阻害薬

FacebookTwitterLine

トラゼンタとは?

トラゼンタの写真

トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)は、インクレチン(消化管から分泌されるホルモンの一種)を分解するDPP-4という酵素を選択的に阻害する薬剤です。
インクレチンは、インスリンの分泌を促す作用と肝臓における糖の産生を抑制する作用を併せ持つホルモンです。
トラゼンタは、DPP-4を競合的かつ可逆的に阻害してインクレチンの濃度を上昇させ、結果として血糖低下作用を示します。

トラゼンタの特徴

適応疾患・用法用量

トラゼンタは2型糖尿病に適応があり、成人には通常1日1回5mgを投与します。
なお、トラゼンタの使用は、あらかじめ非薬物療法(食事療法+運動療法)を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮します。

血糖降下作用

2型糖尿病の方を対象とした臨床試験では、トラゼンタを服用していないグループではHbA1cが0.39上昇したのに対して、トラゼンタを服用したグループではHbA1cが平均で0.49低下したという結果が得られています。
また別の臨床試験では、他の糖尿病治療薬と併用したときの有効性と安全性が確認されています。

治療上のメリット

トラゼンタは従来の糖尿病治療薬とは異なる作用機序を持つため、インスリン製剤をはじめとしたほとんどの糖尿病治療薬と併用できます。
また、血糖に依存してゆるやかに作用があらわれるため、低血糖を起こしにくいというメリットもあります。一方で食欲を増進させないため、体重増加を来たしにくいという点も大きなメリットです。
さらに、体内に取り込まれたトラゼンタのほとんどは、未変化体のまま主に糞便中へ排泄されるため、腎機能障害がある方にも使いやすく、基本的に用量調整は必要ありません。

トラゼンタを服用する上での注意点

トラゼンタを服用できない方

以下に該当する場合は、トラゼンタの服用が禁忌とされています。

  • トラゼンタの成分に過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
  • 糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡、1型糖尿病の方(輸液およびインスリンによるすみやかな高血糖の是正が必須となるため、トラゼンタを投与すべきではありません。)
  • 重症感染症、手術前後、重篤な外傷がある場合(インスリン注射による血糖管理が望まれるため、トラゼンタの投与は適しません。)

服用に注意が必要な方

以下の場合は、トラゼンタの服用に注意が必要です。

  • 低血糖を起こすおそれがある以下の場合(トラゼンタの服用で低血糖の発生リスクが高くなります)
  • 脳下垂体機能不全または副腎機能不全がある場合
  • 栄養不良状態、飢餓状態、不規則な食事摂取、食事摂取量の不足または衰弱状態の場合
  • 激しい筋肉運動を行う場合
  • 過度のアルコール摂取がある場合
  • 腹部手術の既往または腸閉塞の既往がある場合(重大な副作用の一つである腸閉塞を起こすおそれがあります。)

トラゼンタの副作用

おもな副作用として、便秘や腹部の張り、めまい、むくみなどが報告されています。
また、重大な副作用として、低血糖、腸閉塞、肝機能障害、間質性肺炎、急性膵炎などが報告されています。重大な副作用が発生することはそれほど多くありませんが、下記のような症状があらわれた場合は適切な処置を行ったり受診したりしてください。

低血糖 めまい、冷や汗、脱力感、動悸、
手足のふるえ、強い空腹感
腸閉塞 ひどい便秘、腹部の張り、
持続する腹痛、嘔吐
肝機能障害 食欲不振、全身のだるさ、吐き気
類天疱瘡 水疱、びらん、紅斑
間質性肺炎 発熱、空咳、呼吸困難
急性膵炎 激しい上腹部の痛み、
腰や背中の痛み、吐き気

日常生活における注意点

他の治療薬との併用に関して

添付文書上、トラゼンタとの併用が禁忌となっている薬剤はありません。しかし、糖尿病治療薬や血糖降下作用に影響を与える薬との併用には注意が必要です。他の医療機関で下記のような薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。

  • 糖尿病用薬:血糖降下作用が増強され、低血糖のリスクが増加するおそれがあります。
  • 血糖降下作用を増強する薬剤(例:サリチル酸剤(抗血小板薬など)、モノアミン酸化酵素阻害薬(パーキンソン病などの治療薬)、リトナビル(抗ウイルス化学療法薬)など):血糖降下作用が増強されるおそれがあります。
  • 血糖降下作用を減弱する薬剤(例:副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、アドレナリン、リファンピシン(結核などの治療薬)など):血糖降下作用が減弱されるおそれがあります。

特定の患者さまへの使用に関して

腎機能障害がある方への使用

トラゼンタは、主に糞便中に未変化体のまま排泄され、尿中に排泄される割合はごくわずかです。そのため、腎機能障害がある場合でも使用可能で、基本的に用量調整は必要ありません。これは、高度腎機能障害がある場合でも同様です。
もっとも、薬の作用のあらわれ方には個人差があります。気になる症状や不安がある場合は、診察時にご相談ください。

妊娠中の方への使用

トラゼンタを妊娠中の方へ投与した場合の安全性は確立していません。また、動物を対象とした試験で、トラゼンタは胎児へ移行することが報告されています。
したがって、妊娠中の方や妊娠している可能性のある方には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を考慮します。

授乳中の方への使用

トラゼンタを授乳中の方へ投与した場合の安全性は確立していません。また、トラゼンタは動物を対象とした試験で乳汁中への移行が報告されています。
そのため、トラゼンタを授乳中の方へ使用する場合は、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮したうえで、授乳の継続または中止を検討します。

お子さまへの使用

トラゼンタは、小児などを対象とした有効性および安全性を指標とした臨床試験を実施していません。
ご家庭ではお子さまの誤服用を防ぐため、トラゼンタの保管場所にご注意ください。

ご高齢の方への使用

国内外で行われた臨床試験のデータ解析結果では、年齢が高くなるにしたがい低血糖などの副作用の発現率が高くなることが確認されています。
そのため、高齢の方へトラゼンタを使用する場合は、状態の変化に留意しながら慎重に治療を進めていきます。

低血糖に関する注意点

トラゼンタの服用で血糖が低くなり過ぎると、低血糖症状があらわれることがあります。特に他の糖尿病治療薬を併用している場合は、低血糖のリスクが高くなるため注意が必要です。低血糖の症状があらわれたら、すぐにブドウ糖や砂糖を含む飲料水などを摂取して症状の回復を図ってください。
糖分を摂っても症状が回復しない場合は、すみやかに受診してください。また、症状が回復した場合でも、次回受診日には低血糖症状があらわれたことを必ず報告してください。

トラゼンタの患者さま負担・薬価について

トラゼンタは5mgのみで規格違いはありません。1錠あたりの薬価は126.2円です。
ただし、患者さまにご負担いただく薬剤費は保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがトラゼンタ錠5mgを1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は1135.8円になります(薬剤費のみの計算です)。

よくあるご質問

血糖値が下がらず、トラゼンタが追加になりました。でも、以前他の薬で低血糖を起こしたことがあるので、薬を増やしたくありません。飲まなくてもいいですか?

トラゼンタは比較的効果が緩やかなので、低血糖を起こすリスクは低いとされています。とはいえ、低血糖をまったく起こさないわけではないため、注意は必要です。
ただし、低血糖の発現を心配して薬の服用をやめてしまうと、神経障害や糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などの重篤な合併症をまねくおそれがあります。また、血糖コントロールがうまくいっていないと、外科手術が受けられない場合もあります。
トラゼンタの服用や治療について不安がある場合は、診察時にご相談ください。低血糖などの副作用が頻繁に生じている場合は、治療方針の変更なども含めて検討いたします。

トラゼンタを飲み始めたら、血糖値が落ち着いてきました。食事療法や運動療法は、もうやらなくてもいいですか?

2型糖尿病の治療では、非薬物療法(食事療法・運動療法)がとても重要です。トラゼンタなど糖尿病治療薬を服用している場合でも、非薬物療法には引き続き取り組むようにしてください。
ただし、極端な食事制限や激しい運動は低血糖をまねきやすくなります。無理をする必要はありませんので、今まで通り健康的な食事や適度な運動を心がけてください。

トラゼンタを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?

トラゼンタを飲み忘れた場合は、気が付いたときにすぐ1回分を飲んでください。食事の時間は気にしなくても大丈夫です。ただし、次に飲む時間が近い場合は服用せず、次の服用時間に1回分を服用してください。その際、絶対に2回分を一度に飲んではいけません。薬の服用量が多すぎると、副作用の発現リスクが高くなります。

 

FacebookTwitterLine