ヒドロクロロチアジドとは?
ヒドロクロロチアジドは、チアジド系(サイアザイド系)利尿薬の一種です。
チアジド系利尿薬は、腎臓の遠位尿細管で塩分の再吸収を阻害して、ナトリウム・水分・カリウムの排泄量を増やします。血液中の余分な水分が排泄されるため、むくみが取れて血圧が下がり、心臓の負担も軽くなります。
なお、ヒドロクロロチアジドによる降圧作用は、初期には循環血流量の低下により、長期的には末梢血管の拡張により発揮されると考えられています。
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ヒドロクロロチアジドの特徴
ヒドロクロロチアジドは、世界的によく使われている利尿降圧薬です。日本では単剤で使われることは少ないですが、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)などほかの降圧成分との配合製剤の成分としてよく使われています。1950年代から使用されており、薬価が低いこともメリットの一つといえます。
効能効果・用法用量
ヒドロクロロチアジドは、高血圧症(本態性、腎性など)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、薬剤(副腎皮質ホルモン、フェニルブタゾンなど)による浮腫に適応があります。
通常、成人には1回25~100mgを1日1~2回投与します。なお、投与量は年齢、症状により適宜増減します。
ただし、高血圧症に用いる場合は少量から投与をスタートして、徐々に増量します。また、悪性高血圧に用いる場合は、通常他の降圧薬と併用します。
臨床上の効果
ヒドロクロロチアジドは1950年代から使用されている薬剤で、海外の臨床試験では寿命を延ばすことが証明されています。
国内の臨床試験では、高血圧症において69.4%の有効率、心性・腎性・肝性などの浮腫については75%の有効率を示したと報告されています。
ヒドロクロロチアジドを服用する上での注意点
ヒドロクロロチアジドを服用できない方
以下の場合は、ヒドロクロロチアジドを服用できません。
- 無尿の場合(ヒドロクロロチアジドの効果が期待できません。)
- 急性腎不全の場合(腎機能をさらに悪化させるおそれがあります。)
- 体液中のナトリウム・カリウムが明らかに減少している場合(電解質失調を悪化させるおそれがあります。)
- チアジド系薬剤またはその類似化合物に対して過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
- 男性の夜間頻尿の治療としてデスモプレシン酢酸塩水和物を服用している場合(低ナトリウム血症が発現するおそれがあります。)
ヒドロクロロチアジドの服用に注意が必要な方
以下の場合は、ヒドロクロロチアジドの服用に注意が必要です。
- 重篤な冠動脈硬化症または脳動脈硬化症がある場合(急激な利尿があらわれた場合、血栓塞栓症を誘発するおそれがあります。)
- 本人または両親・兄弟に痛風、糖尿病がある場合(高尿酸血症、高血糖症を来し、痛風、血糖値の悪化や顕性化のおそれがあります。)
- 下痢、嘔吐がある場合(電解質失調を起こすおそれがあります。)
- 高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進症がある場合(血清カルシウムを上昇させるおそれがあります。)
- 減塩療法中の場合(低ナトリウム血症を起こすおそれがあります。)
- 交感神経切除後の場合(ヒドロクロロチアジドの降圧作用が増強されます。)
その他、腎機能障害・肝機能障害がある場合なども、ヒドロクロロチアジドの服用には注意が必要です(参照:特定の患者さまへの使用に関して)。
ヒドロクロロチアジドの副作用
おもな副作用として、食欲不振、悪心・嘔吐、腹部不快感、めまい、起立性低血圧、体のだるさなどが報告されています。
その他、重大な副作用として、再生不良性貧血、間質性肺炎、アナフィラキシー、低ナトリウム血症、低カリウム血症、急性近視などが報告されています。重大な副作用が発生する頻度は明らかになっていませんが、以下のような症状があらわれた場合はすぐに受診して適切な治療を受けてください。
日常生活における注意点
他の治療薬との併用に関して
ヒドロクロロチアジドは、デスモプレシン酢酸塩水和物(商品名:ミニリンメルト)との併用が禁忌になっています。これは、併用により低ナトリウム血症をまねくおそれがあるためです。
その他、併用に注意しなければならない薬剤は以下のとおりです。他の医療機関で以下の薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。また、他の医療機関で治療を受ける場合は、ヒドロクロロチアジドを服用していることを伝えてください。
- バルビツール酸誘導体(てんかんなどの治療薬)、アヘンアルカロイド系麻薬(がん性疼痛などに対する鎮痛薬):起立性低血圧が増強されるおそれがあります。
- 他の降圧薬:降圧作用が増強されるおそれがあります。
- ジギタリス製剤(心不全や頻脈などの治療薬):ジギタリス製剤の作用が増強されるおそれがあります。
- 炭酸リチウム(躁病などの治療薬):リチウム中毒をまねくおそれがあります。
- 糖質副腎皮質ホルモン剤(ステロイドの一種)、グリチルリチン製剤:低カリウム血症が発現するおそれがあります。
- SU剤、インスリン(いずれも糖尿病の治療薬):SU剤やインスリンの作用が著しく減弱するおそれがあります。
- コレスチラミン(高コレステロール血症の治療薬):ヒドロクロロチアジドの作用が減弱するおそれがあります。
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬:ヒドロクロロチアジドの利尿作用が減弱するおそれがあります。
なお、ヒドロクロロチアジドはアルコールと併用した場合も起立性低血圧があらわれるリスクが高くなるため、アルコールとの併用にも注意が必要とされています。
特定の患者さまへの使用に関して
腎機能障害・肝機能障害がある方への使用
急性腎不全の場合は腎機能をさらに悪化させるおそれがあるため、ヒドロクロロチアジドの投与が禁忌となっています。
一方、急性腎不全ではないものの重篤な腎障害がある場合は、ヒドロクロロチアジドの投与で腎機能がさらに悪化するおそれがあります。
また、進行した肝硬変症がある場合・肝疾患や肝機能障害がある場合は、肝性昏睡をまねくリスクが高くなります。
そのため、腎機能障害や肝機能障害のある方にヒドロクロロチアジドを投与する場合は、体調や検査値の変化に注意しながら慎重に治療を進めていきます。
妊娠中の方への使用
チアジド系薬剤は、新生児または乳児に高ビリルビン血症、血小板減少などを起こすことがあります。また、利尿効果に基づく血漿量減少、血液濃縮、子宮・胎盤血流量減少があらわれることもあります。
そのため、妊娠後期には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討します。
授乳中の方への使用
ヒドロクロロチアジドは、ヒトの乳汁中に移行することが報告されています。
したがって、ヒドロクロロチアジド投与中は授乳しないのが望ましいとされています。
お子さまへの使用
乳児には、成人に比べて電解質バランスが崩れやすいという特徴があります。したがって、お子さまにヒドロクロロチアジドを使用する場合は、全身状態や検査値などにも十分に注意しながら慎重に投与量などを検討します。
ご高齢の方への使用
高齢の方の場合、急激な利尿は脱水・低血圧などによる立ちくらみ・めまい・失神などを引き起こすことがあります。特に心疾患などでむくみのある方では、急激な利尿が脳梗塞などの血栓塞栓症を誘発するおそれがあります。さらに、高齢の方は低ナトリウム血症や低カリウム血症のリスクも高い傾向があります。
このようなことから、高齢の方にヒドロクロロチアジドを使用する場合は、少量から投与を始めるなどして症状や検査値に留意しながら慎重に治療を進めます。
ヒドロクロロチアジドの患者負担・薬価について
ヒドロクロロチアジドには12.5mg・25mgの2規格があり、12.5mgは普通錠とOD錠の2種類があります。各規格・剤型の薬価は以下のとおりです。
なお、患者さまにご負担いただく薬剤費は、保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがヒドロクロロチアジド錠25mgを1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は51.3円になります(薬剤費のみの計算です)。
よくあるご質問
- ヒドロクロロチアジドが朝食後・昼食後で処方されています。昼食後は飲み忘れてしまうことが多いので、夕食後に飲んでもいいですか?
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ヒドロクロロチアジドを夕食後や寝る前に飲むと、夜間の排尿回数が増えて睡眠が妨げられるおそれがあります。そのため、夕食後以降に飲むことはおすすめできません。できるだけ指示された用法通りに服用してください。
なお、生活パターンや仕事の都合で昼に飲むのが難しい場合は、診察時にご相談ください。服用方法や薬剤の変更なども含めて検討いたします。
- ヒドロクロロチアジドの普通錠とOD錠では、どちらがよく効きますか?また、OD錠は、水ありの場合と水なしの場合ではどちらがよく効きますか?
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ヒドロクロロチアジドの普通錠とOD錠の効き目は同じです。また、OD錠を水で飲んだ場合と唾液で溶かして飲みこんだ場合の効き目も同じです。
剤型および飲み込み方で効き目に違いが出ることはありませんので、ご安心ください。
なお、OD錠は口腔内に入れるとすぐに溶けますが、成分が口腔粘膜から吸収されるわけではありません。口腔内で溶けたら、必ず唾液と一緒に飲み込んでください。
- ヒドロクロロチアジドを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?
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ヒドロクロロチアジドを飲み忘れた場合は、気付いたときにすぐ1回分を飲んでください。ただし、次に飲む時間が近いときは1回分を飛ばし、次の服用時間に1回分を服用してください。このとき、絶対に2回分を一度に飲んではいけません。
なお、夜間の休息が特に必要な場合は、飲み忘れた分をできるだけ午前中に服用するようにしてください。午後遅い時間に服用すると、睡眠が妨げられるおそれがあります。
記事制作者
木村眞樹子
東京女子医科大学卒業。循環器内科専門医、内科、睡眠科において臨床経験を積む。
東洋医学を取り入れた漢方治療にも対応。
オンライン診療に積極的に取り組む3児の母。