ラシックスとは?
ラシックス(一般名:フロセミド)は、ループ系利尿薬の一種です。
ラシックスをはじめとしたループ系利尿薬には、尿細管がループ状に曲がっている部位(ヘンレ係蹄上行脚髄質部)に作用して尿量を増やす働きがあります。ラシックスを投与すると体内にたまった余分な水分が尿として排泄されるため、循環血流量が減って血圧が下がり、むくみも解消されます。また、心臓にかかる負担も軽減されます。
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ラシックスの特徴
ラシックスをはじめとしたループ利尿薬は、比較的利尿作用が強いのが特徴です。ラシックスは薬用量の幅が広く、利尿作用は用量に比例して強くなります。また、利尿作用とは別に血管拡張作用があり、カリウムの排泄はチアジド系利尿薬(フルイトランなど)より少ないという利点があります。そのほか、糖代謝や腎機能にあまり影響をおよぼさない点もメリットといえます。
適応疾患・用法用量
ラシックスは、高血圧症(本態性、腎性など)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、末梢血管障害による浮腫、尿路結石排出促進に適応があります。
通常、成人には1日1回40~80mgを毎日、または1日おきに投与します。年齢、症状により適宜増減しますが、腎機能不全などの場合はさらに大量に用いる場合もあります。
ただし、悪性高血圧に用いる場合には、通常他の降圧剤と併用します。
効果発現時間・効果持続時間
ラシックスによる降圧効果は、比較的穏やかにあらわれます。
なお、ラシックスを健康な成人に投与した試験では、経口投与後1時間以内に利尿効果が発現し、その効果は約6時間持続したと報告されています。そのため、ラシックスを服用する際は、外出や就寝のタイミングに配慮する必要があります。
ラシックスを服用する上での注意点
ラシックスを服用できない方
以下の方は、ラシックスを服用できません。
- 無尿の方(ラシックスの効果が期待できません。)
- 肝性昏睡の方(肝性昏睡が悪化するおそれがあります。)
- 体液中のナトリウム、カリウムが明らかに減少している方(電解質失調を起こすおそれがあります。)
- スルフォンアミド誘導体(ラシックスとよく似た構造を持つ薬剤)に対して過敏症の既往歴のある方(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
- 男性の夜間頻尿の治療としてデスモプレシン酢酸塩水和物を服用中の方(低ナトリウム血症が発現するおそれがあります。)
ラシックスの服用に注意が必要な方
以下の場合はラシックスの服用が禁忌とされているわけではありませんが、注意が必要です。
- 重篤な冠動脈硬化症または脳動脈硬化症のある方(急激な利尿があらわれた場合、血栓塞栓症を誘発するおそれがあります。)
- 本人または両親・兄弟に痛風、糖尿病のある方(痛風発作を起こすおそれがあります。また、糖尿病が悪化するおそれがあります。)
- 下痢、嘔吐のある方(電解質失調を起こすおそれがあります。)
- 減塩療法中の方(低ナトリウム血症を起こすおそれがあります。)
- 全身性エリテマトーデスの方(全身性エリテマトーデスを悪化させるおそれがあります。)
ラシックスの副作用
副作用として、低カリウム血症(倦怠感、筋力低下、動悸など)や低ナトリウム血症(倦怠感、のどの乾きなど)、高尿酸血症、高血糖症、貧血、発疹、発赤、かゆみ、光線過敏症、食欲不振、吐き気、頭痛、耳鳴り、聴覚異常、めまいなどが報告されています。
その他、重大な副作用としてショックやアナフィラキシー、難聴、心室性不整脈、間質性腎炎、間質性肺炎などが報告されています。重大な副作用の発生頻度は明らかになっていませんが、以下のような症状があらわれた場合はすぐに受診して適切な治療を受けてください。
日常生活における注意点
他の治療薬との併用に関して
ラシックスは、デスモプレシン酢酸塩水和物(商品名:ミニリンメルト)との併用が禁忌になっています。これは、併用により低ナトリウム血症をまねくおそれがあるためです。
その他、併用に注意しなければならない薬剤は以下のとおりです。他の医療機関で以下の薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。また、他の医療機関で治療を受ける場合は、ラシックスを服用していることを伝えてください。
- 他の降圧薬:降圧作用が増強されるおそれがあります。
- ACE阻害剤・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB):過度の血圧低下や、腎不全を含む腎機能の悪化を起こすことがあります。
- ジギタリス製剤(心不全や頻脈などの治療薬):ジギタリス製剤の作用が増強されるおそれがあります。
- アミノグリコシド系抗生物質:聴覚障害を増強するおそれがあります。
- ヒドロコルチゾン(ステロイドの一種)・甘草含有製剤:低カリウム血症が発現するおそれがあります。
- SU剤・インスリン(糖尿病治療薬):SU剤やインスリンの作用が著しく減弱するおそれがあります。
- SGLT2阻害剤(糖尿病治療薬):利尿作用が増強されるおそれがあります。
- リチウム製剤(両極性障害などの治療薬):リチウム中毒をまねくおそれがあります。
- アスピリン(解熱鎮痛消炎薬):アスピリンの排泄が遅れて中毒症状が起こるおそれがあります。
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬:ラシックスの利尿作用が減弱するおそれがあります。
- 尿酸排泄促進薬(痛風の治療薬):尿酸排泄促進薬の作用が減弱するおそれがあります。
- カルバマゼピン(てんかんや躁状態の治療薬):低ナトリウム血症を起こすおそれがあります。
- シクロスポリン(免疫抑制薬):痛風性関節炎を起こすおそれがあります。
- アリスキレン(高血圧症治療薬):利尿作用が低下することがあります。
特定の患者さまへの使用に関して
腎機能障害がある方・肝機能障害がある方への使用
腎機能障害のある方にラシックスを投与すると、排泄の遅延により血中濃度が上昇するおそれがあります。
また、肝疾患・肝機能障害・肝硬変のある方にラシックスを投与すると、肝性脳症を誘発するおそれがあります。
そのため、腎機能障害や肝機能障害のある方にラシックスを投与する場合は、慎重に治療を進めていきます。
なお、肝性脳症に対してラシックスは禁忌とされています。
妊娠中の方への使用
ラシックスは、妊娠初期の投与に関する安全性が確立していません。そのため、妊娠初期の方または妊娠している可能性のある方には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討します。
授乳中の方への使用
ラシックスは、母乳中に移行することが明らかになっています。
そのため、ラシックス投与中は授乳を避けるのが望ましいとされています。
お子さまへの使用
生後数週間以内の呼吸窮迫症の低出生体重児にラシックスを投与すると、動脈管開存のリスクが増加するおそれがあります。また、動脈管開存および硝子膜症のため浮腫を生じた重度の低出生体重児に投与したところ、腎石灰化症があらわれたとの報告があります。低出生体重児でなくても、乳児は電解質バランスが崩れやすいという特徴があります。そのため、小児にラシックスを使用する際は、全身状態や検査値などにも十分に注意しながら慎重に投与します。
ご高齢の方への使用
高齢の方の場合、急激な利尿は脱水・低血圧などによる立ちくらみ・めまい・失神などを引き起こすことがあります。特に心疾患などでむくみのある方では、急激な利尿が脳梗塞などの血栓塞栓症を誘発するおそれがあります。さらに、高齢の方は低ナトリウム血症や低カリウム血症のリスクも高い傾向があります。
このようなことから、高齢の方にラシックスを使用する場合は、少量から投与を始めるなどして状態を観察しながら慎重に治療を進めます。
ラシックスの患者さま負担・薬価について
ラシックスには10mg・20mg・40mgの3規格があります。各規格の薬価は以下のとおりです。
患者さまにご負担いただく薬剤費は、保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがラシックス錠40mgを1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は109.8円になります(薬剤費のみの計算です)。
ジェネリック薬を使用すれば、さらに薬剤費をおさえられます。
なお、ジェネリック薬には細粒もあります。錠剤が苦手などで細粒をご希望の場合は、診察時にご相談ください。細粒を選択した場合でも、薬剤費はラシックス錠より安価になります。
よくあるご質問
- ラシックスを飲むとトイレが近くなると聞き、不安になっています。もともと夜のトイレが近いのですが、大丈夫ですか?
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ラシックスは、通常服用から1時間以内に利尿効果があらわれます。効果持続時間は約6時間とされていますが、飲み始めて1~2時間ほど経てばそれほど頻繁に尿意を覚えることはありません。朝、あるいは昼にラシックスを飲めば、夜間の排尿回数が増えることはまずありませんので、ご安心ください。
- ラシックスを夜に飲まないようにといわれました。どうしてですか。
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ラシックスを夜に服用すると、夜間の排尿回数が増えて睡眠が妨げられるおそれがあるためです。特に服用してから1~2時間以内は、頻繁に強い尿意を感じる可能性があります。そのため、夜、特に寝る直前の服用は避けてください。
- ラシックスを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?
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ラシックスを飲み忘れた場合は、気付いたときにできるだけ早く1回分を服用してください。ただし、次に飲む時間が近い場合・飲み忘れに気付いたのが夜だった場合は、忘れた分は飲まず、次の服用時間に1回分を服用してください。なお、一度に2回分を飲んではいけません。服用量が多すぎると副作用の発生リスクが高くなります。
- 薬を一包化してもらったら、遮光保存するようにいわれました。理由を教えてください。
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ラシックスは、光に当たると黄色く着色することがあります。そのため、薬を一包化してもらっている場合は、できるだけ光を避けて保存するようにしてください。PTPシートのまま薬をもらっている場合でも、シートから出して保管するのはできるだけ避ける必要があります。やむを得ずシートから出して保管する場合は、光を避けて湿度の低い場所で保管するようにしてください。
記事制作者
木村眞樹子
東京女子医科大学卒業。循環器内科専門医、内科、睡眠科において臨床経験を積む。
東洋医学を取り入れた漢方治療にも対応。
オンライン診療に積極的に取り組む3児の母。