メトグルコとは?
メトグルコ(一般名:メトホルミン塩酸塩)は、血糖降下薬の一種です。肝臓における糖の生成をおさえたり、筋肉や脂肪組織における糖の取り込みを促進したりすることでインスリン抵抗性を改善して、血糖を低下させます。
また、インスリン抵抗性は多嚢胞性卵胞症候群(不妊原因の一つ)とも関連があることから、メトグルコは多嚢胞性卵巣症候群における排卵障害の改善にも使用されます
なお、「メトグルコ(METGLUCO)」という名称は、一般名の「Metformin:メトホルミン」と、導入先であるMerck Santé社(フランス)の販売名「Glucophage:グルコファージ」に由来します。
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メトグルコの特徴
メトグルコは、インスリン分泌を介さずに血糖降下作用を示す薬剤です。多嚢胞性卵巣症候群の不妊治療に用いられることもあります。単独の使用であれば低血糖を起こしにくく、体重増加をまねくことも少ないとされています。そのほか、ほかの糖尿病治療薬に比べて低薬価であることも利点といえます。
適応疾患・用法用量
メトグルコの適応疾患と用法用量は以下のとおりです。
- 2型糖尿病
(非薬物療法(食事療法・運動療法)のみ、あるいは非薬物療法に加えてスルホニルウレア剤を使用しても十分な効果が得られない場合に限る)
成人の場合
10歳以上の小児の場合
- 多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激
(肥満、耐糖能異常、またはインスリン抵抗性のいずれかを呈する場合に限る。)
血糖改善効果や治療上の特徴
非薬物療法を行っても血糖コントロールが不十分な2型糖尿病の方を対象とした臨床試験では、メトグルコの投与でHbA1cが1.2~1.8%低下したという結果が得られています。また、血糖降下作用は肥満の有無によらないことも明らかになっています。
なお、メトグルコは体重増加を助長しないことから、肥満をともなう2型糖尿病の治療によく用いられます。
メトグルコを服用する上での注意点
メトグルコを服用できない方
以下に該当する場合は、メトグルコの服用が禁忌とされています。
- 乳酸アシドーシスのリスクが高い以下の場合
- 乳酸アシドーシスの既往がある場合
- 重度の腎機能障害がある場合、または透析(腹膜透析を含む)を受けている場合
- 重度の肝機能障害がある場合
- 心血管系、肺機能に高度の障害(ショック、心不全、心筋梗塞、肺塞栓など)がある場合、およびその他の低酸素血症をともないやすい状態にある場合
- 脱水を起こしている場合または脱水が懸念される場合(下痢、嘔吐などの胃腸障害がある場合、経口摂取が困難な場合など)
- 過度のアルコール摂取がある場合
- 重症ケトーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡、1型糖尿病の方(輸液やインスリンによるすみやかな高血糖の是正が必須であり、メトグルコの投与は適しません。)
- 重症感染症、手術前後、重篤な外傷がある場合(インスリン注射による血糖管理が望まれるため、メトグルコの投与は適しません。また、乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。)
- 栄養不良状態、飢餓状態、衰弱状態、脳下垂体機能不全または副腎機能不全がある場合(低血糖を起こすおそれがあります。)
- 妊娠中または妊娠している可能性がある場合(動物を対象とした試験で、胎児への移行や催奇形性が報告されています。また、乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。)
- メトグルコの成分またはビグアナイド系薬剤に対して過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
服用に注意が必要な方
以下の場合は、メトグルコの服用に注意が必要です。
- 低血糖を起こすおそれがある以下のような場合
- 食事の摂取が不規則、食事の摂取量が不足している場合
- 激しい筋肉運動をしている場合
- 感染症がある場合(乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。)
また、妊娠初期の投与を避けるため、生殖能がある女性に使用する場合も注意が必要とされています。
その他、腎機能障害または肝機能障害がある方・高齢の方なども、メトグルコの服用には注意が必要です(参照:特定の患者さまへの使用に関して)。
メトグルコの副作用
おもな副作用として、下痢、悪心、食欲不振、腹痛、嘔吐などが報告されています。
また、重大な副作用として、乳酸アシドーシスや低血糖、肝機能障害、横紋筋融解症などが報告されています。メトグルコの服用にともない下記のような症状があらわれた場合は、適切な処置を行ったり受診して治療を受けたりしてください。
日常生活における注意点
他の治療薬との併用に関して
添付文書上、メトグルコとの併用が禁忌となっている薬剤はありません。しかし、過度のアルコール摂取は乳酸アシドーシスをまねくおそれがあるため、禁忌とされています。
その他、併用に注意が必要な薬剤は以下のとおりです。他の医療機関で下記の薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。また、他の医療機関を受診する際は、メトグルコの服用を必ず伝えてください。
- ヨード造影剤(CT検査などで使用する薬剤)、腎毒性の強い抗生物質(ゲンタマイシンなど):併用により乳酸アシドーシスを起こすことがあります。
- 利尿作用を有する薬剤(利尿薬、SGLT2阻害薬(糖尿病薬)など):脱水により乳酸アシドーシスを起こすことがあります。
- 糖尿病薬:血糖降下作用が相加的に増強され、低血糖を起こすおそれがあります。
- 血糖降下作用を増強する薬剤(例:β遮断薬(高血圧や心不全などの治療薬)、サリチル酸剤(抗血小板薬など)、モノアミン酸化酵素阻害薬(パーキンソン病などの治療薬)など):血糖降下作用が増強されるおそれがあります。
- 血糖降下作用を減弱する薬剤(例:副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、アドレナリン、利尿薬など):血糖降下作用が減弱されるおそれがあります。
- シメチジン(胃潰瘍などの治療薬)、ドルテグラビル(抗ウイルス薬)、ビクテグラビル(抗ウイルス薬)、バンデタニブ(悪性腫瘍の治療薬)など:メトグルコの排泄が阻害され、メトグルコの作用が増強されるおそれがあります。
- イメグリミン塩酸塩(糖尿病薬):併用初期に、消化器症状が多発する傾向が認められています。
特定の患者さまへの使用に関して
肝機能障害や腎機能障害がある方への使用
腎機能障害があると、メトグルコの腎臓における排泄が減少して血中濃度が上昇し、乳酸アシドーシスなどの発現リスクが高くなるおそれがあります。また、肝機能障害があると、肝臓における乳酸の代謝能が低下して乳酸アシドーシスが発現しやすくなります。
そのため、重度の腎機能障害や肝機能障害がある方、透析(腹膜透析を含む)を受けている方については、メトグルコの使用が禁忌とされています。
また、重篤でない場合であっても、腎機能障害・肝機能障害がある場合は乳酸アシドーシスの発生リスクが高くなります。このようなことから、腎臓や肝臓に障害がある場合は慎重に経過を観察し、投与の適否や投与量の調節を検討していきます。
妊娠中の方への使用
妊娠中の方は、乳酸アシドーシスを起こすリスクが高くなっています。また、メトグルコは動物を対象とした試験で胎児への移行や催奇形作用が報告されています。
したがって、妊娠中の方や妊娠している可能性のある方については、メトグルコの使用が禁忌とされています。
なお、メトグルコを多嚢胞性卵巣症候群における排卵障害の改善に使用する場合は、妊娠初期の投与を避けるため、治療開始前に妊娠していないことを確認します。さらに、排卵後または採卵後にはメトグルコの服用を中止する必要があります。
授乳中の方への使用
動物を対象とした試験で、メトグルコは乳汁中への移行が確認されています。
そのため、授乳中の方にメトグルコを使用する場合は、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討します。
お子さまへの使用
メトグルコは、低出生体重児・新生児・乳児・幼児を対象とした臨床試験は実施していません。また、10歳未満の小児への使用経験は限られています。
したがって、ご家庭では特に幼いお子さまの誤服用を防ぐため、保管場所などにご注意ください。
ご高齢の方への使用
高齢の方では、腎機能や肝機能などが低下していることが多く、脱水症状を起こしやすくなっています。また、乳酸アシドーシスの発生リスクも高くなっています。したがって、高齢の方にメトグルコを使用する場合は投与の適否も含めて慎重に判断し、治療を進めていきます。
メトグルコによる乳酸アシドーシスに関する注意点
メトグルコなどビグアナイド系薬剤の特異的な副作用として、乳酸アシドーシスがあります。乳酸アシドーシスとは、何らかの原因で乳酸が蓄積し、血液が酸性に傾いた状態です。特に、腎臓や肝臓の機能が低下している方・高齢の方などでは乳酸アシドーシスがあらわれやすいため、注意が必要です。
その他、以下の場合も乳酸アシドーシスの発生リスクが高くなります。
- 過度の飲酒
- 脱水状態
- 発熱や下痢・嘔吐、食事が十分に摂れないなど、いわゆる「シックデイ」のとき
- 利尿作用のある薬との併用
乳酸アシドーシスの初期症状は、悪心・嘔吐・腹痛・下痢などの胃腸症状、体のだるさ、筋肉痛、過呼吸などです。これらの症状があらわれた場合はすみやかに受診し、適切な治療を受けてください。
ヨード造影剤検査を受ける際の注意点
メトグルコをヨード造影剤と併用すると、メトグルコの排泄が低下して乳酸アシドーシスを起こすおそれがあります。そのため、ヨード造影剤検査を受ける場合は、緊急時を除いてあらかじめメトグルコの投与を一時的に中止する必要があります。また、ヨード造影剤投与後48時間はメトグルコの投与を控えなければなりません。
したがって、ヨード造影剤検査を予定している場合は、主治医にメトグルコの服用を伝えてください。
低血糖に関する注意点
メトグルコには血糖降下作用があるため、副作用として低血糖が生じるおそれがあります。特に他の血糖降下薬を併用している場合は、低血糖の発現に注意が必要です。低血糖を疑う症状があらわれたら、すぐにブドウ糖や砂糖を含む飲料水などを摂取しましょう。
なお、糖分を摂っても症状が回復しない場合は、すみやかに受診してください。症状が回復した場合でも、次回受診日には低血糖症状があらわれたことを必ず報告してください。
メトグルコの患者さま負担・薬価について
メトグルコには250mgと500mgの2規格があります。各規格の薬価は以下のとおりです。
患者さまにご負担いただく薬剤費は、保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがメトグルコ錠250mgを1日3回30日分処方された場合、ご負担金額は272.7円になります(薬剤費のみの計算です)。
よくあるご質問
- メトグルコは、シックデイのときにも飲むほうがいいですか?
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シックデイのときは、脱水が懸念されます。そして脱水症状があるときにメトグルコを服用すると、乳酸アシドーシスの発生リスクが高くなります。
したがって、シックデイのときは一旦メトグルコの服用を中止して、かかりつけ医にご相談ください。
なお、脱水を予防するために適度な水分補給を心がけてください。
- メトグルコは食後と食前ではどちらがよく効きますか?
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メトグルコを食直前(食事開始10分前)に服用した場合と食後(食事開始30分後)に服用した場合を比較した試験では、効果に差がないことが確認されています。また、同様に安全性も確認されています。
ただし、指示された飲み方を自己判断で変更するのは避けてください。ライフパターンや併用薬などとの関係でメトグルコの用法変更を希望する場合は、診察時にご相談ください。
- メトグルコを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?
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メトグルコを飲み忘れた場合は、1回とばして次の服用時間に1回分を服用してください。その際、2回分を一度に服用してはいけません。服用量が多くなると、乳酸アシドーシスの発生リスクが高くなります。
記事制作者
木村眞樹子
東京女子医科大学卒業。循環器内科専門医、内科、睡眠科において臨床経験を積む。
東洋医学を取り入れた漢方治療にも対応。
オンライン診療に積極的に取り組む3児の母。