家族性高コレステロール血症とは
家族性高コレステロール血症は、肝臓にあるLDL受容体に生まれつき異常や欠損があることでLDLコレステロール値が高くなる遺伝性疾患です。
そのため、若いうちから動脈硬化が進行しやすく、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなるなどのリスクを伴うことがあります。
家族性高コレステロール血症は2種類に分類され、父親遺伝子と母親遺伝子のどちらかひとつに異常がある「ヘテロ接合体」は、およそ300~500人に1人と高頻度の遺伝性疾患です。
一方、父親遺伝子と母親遺伝子の両方に異常がある「ホモ結合体(重症ケース)」は300,000人に1人の割合で、こちらは難病指定されています。1)
遺伝性のため、親、兄弟、祖父母など血縁関係にある家族のなかにコレステロール値が高く、心筋梗塞や狭心症などの発症がある人が多いことが特徴です。
家族性高コレステロール血症は生まれつき何らかの異常をきたしていることから原発性と呼ばれる一方で、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド(TG)血症の大半が続発性です。
続発性とは、生まれたあと様々な原因による発症してしまう病気のことで、原因や治療法も家族性高コレステロール血症とは少し異なるため、気になる方は併せてご確認ください。
LDL コレステロール (LDL-C) |
140mg/dL 以上 |
高LDL コレステロール 血症 |
---|---|---|
120~ 139mg/dL |
境界域高LDL コレステロール 血症 |
|
HDL コレステロール (HDL-C) |
40mg/dL 未満 |
低HDL コレステロール 血症 |
トリグリセライド (TG) |
150mg/dL 以上 |
高トリグリセライド 血症 |
家族性高コレステロール血症の原因とは
高コレステロール血症と聞くと、食事や運動をはじめとした生活習慣が主な原因とイメージされる方も多いでしょう。
しかし、家族性高コレステロール血症の原因は「遺伝」が原因でLDLコレステロール値が高くなってしまう病気です。
通常、LDLコレステロールは肝臓の表面にあるLDL受容体によって調整されたのち細胞内に取り込まれることで正常な血中コレステロール値を保つことができます。
しかし、家族性高コレステロール血症では、LDL受容体を働かせる遺伝子に異常があり、細胞内にコレステロールが取り込まれず、血中に溜まり続けるためLDLコレステロール値が高くなってしまいます。
父親遺伝子と母親遺伝子のどちらかひとつに異常があるヘテロ結合体では、健常人の半分ほどLDLが分解はされますが、父親遺伝子と母親遺伝子のどちらにも異常があるホモ結合ではLDLがほとんど分解されない難病指定の病気です。
家族性高コレステロール血症の診断
家族性高コレステロール血症の診断は以下の基準により行われます。2)
成人(15歳以上)家族性高コレステロール血症(FH)の診断基準
1. 高LDLコレステロール血症(未治療時のLDLコレステロール値180mg/dl以上
2. 腱黄色腫(手背、肘、膝等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
3. 家族性高コレステロール血症(FH)あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(第一度近親者)
小児(15歳未満)家族性高コレステロール血症(FH)の診断基準
1. 高LDLコレステロール血症(未治療時のLDLコレステロール値140mg/dl以上、複数回確認)
2. 家族性高コレステロール血症(FH)の家族歴(親または同胞)
3. 親のLDLコレステロールが180mg/dl以上または早発性冠動脈疾患の家族歴(親または祖父母)
他の原発性や続発性の高LDL血症を除外し、
l 1と2で家族性高コレステロール血症(FH)と診断
l 1と3で家族性高コレステロール血症(FH)の疑いと診断。ただし、本人のLDLコレステロール値180mg/dl以上の場合は家族性高コレステロール血症(FH)と診断
l 1のみでもLDLコレステロール値250mg/dl以上は家族性高コレステロール血症(FH)と診断。180mg/dl以上の場合は疑いと診断。
家族性高コレステロール血症の治療
遺伝に原因があり生活習慣が主たる原因ではない家族性高コレステロール血症においても食事や運動療法は重要な治療方法となります。
動物性脂肪の摂取はできるだけ控え、肥満を予防改善するために適度な運動を行うことも大切です。
ただし、動脈硬化の進行度によっては運動の実施が心血管疾患のリスク要因となる可能性があるため担当医と相談のうえ自己判断の実施を行わないよう注意する必要があります。
薬物療法
家族性高コレステロール血症において食事や運動などの生活習慣の改善は必要ではありますが、生活習慣だけでコレステロール値がコントロールできないケースが多いことも事実です。
したがって、家族性高コレステロール血症の治療法には薬物療法が多く用いられます。
第一選択薬はスタチン系製剤。肝臓でコレステロールの合成を阻害し、コレステロールの産生を抑える薬です。肝臓のコレステロールが不足することで、血中のコレステロールが肝臓に取り込まれ血中LDLコレステロール値が減少する仕組みの薬剤です。
スタチン系製剤の服用でも思うような効果が得られない場合は、量を増やす、エゼチミブ、MTP阻害薬、レジンなどの他の薬剤を併用して服用することでコレステロールのコントロールを目指します。
LDLアフェレシス
重症ケースにおいては体外循環装置を用いたLDLアフェレシスで血液中のLDLを吸着除去する治療法が用いられます。とくにホモ結合体では薬物療法だけでLDLコレステロール値を十分に低下させることは難しいため幼少期より継続的なLDLアフェレシスが必要となる場合が多いです。3)
家族性高コレステロール血症の予防と注意点
遺伝性の家族性高コレステロール血症で大事なことは早期発見をして治療を行うことです。
健康診断などでLDLコレステロール値が高いと言われた場合は速やかに再検査、精密検査を受けること。また、幼少期でもアキレス腱の肥厚などの症状、家族でコレステロール値が高い人が居れば主治医に相談するなどの行動をとる必要があります。
家族性高コレステロール血症の大規模臨床試験
家族性高コレステロール血症(FH)での大規模な臨床試験は数少ないなかで、プロブコールとHDLコレステロール値の関係性について興味深い報告を紹介します。
プロブコールとHDLコレステロールの関係性
プロブコールとは脂質異常症に対する治療薬のひとつで、肝臓でのコレステロール合成を抑制し、LDLコレステロールの取り込みや胆汁酸の排泄促進等の効果が期待できます。
しかし、プロブコールを服用するとHDLコレステロール値までを低下させることが判っており、慎重な使用が求められている治療薬としても知られています。
しかし、家族性高コレステロール血症(FH)ヘテロ結合体患者にプロブコールを投与した成績ではHDLコレステロール値の低下率とアキレス腱部の肥厚減少率に相関が認められたことから、家族性高コレステロール血症患者へのプロブコールの投与によるHDLコレステロール値の低下は好ましいものだと考える報告があります。
また、プロブコール投与群と非投与群では、投与群で顕著な心血管イベントのリスク低下も報告されていることから、今後さらに大規模な臨床試験の実施、報告が期待されています。4)
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