高TG(トリグリセライド)血症とは
高TG(トリグリセライド)血症とは、血中の中性脂肪が基準値よりも高値を示している脂質代謝異常症のひとつです。
トリグリセライド(中性脂肪)とは、肉や魚などの脂質や体脂肪の大部分を占める物質のこと。単に脂肪と呼ばれることもありますが、脂肪酸がグリセロールと呼ばれる物質に3本束ねられた構造をしていることからトリグリセライドと呼ばれています。
中性脂肪は生命維持のための必要なエネルギー源ですが、過剰摂取は肥満を招き生活習慣病を引き起こすため注意が必要です。
脂質異常症には他にも、LDLコレステロール値が基準値よりも高くなる高LDLコレステロール血症、HDLコレステロールが基準値よりも低くなる低HDLコレステロール血症、遺伝性の家族性高コレステロール血症などがあります。
高TG(トリグリセライド)血症の原因
高TG血症の主な原因は以下のとおりです。
- エネルギーの過剰摂取
- 運動不足、肥満
- 喫煙、飲酒
- 特発性によるもの
エネルギーの過剰摂取
食の欧米文化の浸透が進むなか、脂質や糖質の過剰摂取は中性脂肪(トリグリセライド)を高める大きな要因となります。
また、単純に食べ過ぎなどで1日あたりのエネルギー摂取が多くなると中性脂肪となり体内に蓄積されます。
運動不足、肥満
1日あたりの消費エネルギー量が摂取エネルギー量を下回ると、体内に脂肪が蓄積されやすくなるため中性脂肪値が高くなります。
運動不足は1日の消費エネルギー量を低下させる大きな要因であり、運動以外にも通勤、家事などの身体活動量が少ないことも要因です。
喫煙、飲酒
喫煙、飲酒は中性脂肪値を高めてしまうことがわかっています。1)
喫煙は、タバコに含まれるニコチンがホルモン(カテコールアミン)を活発にすることで中性脂肪の合成を促進させてしまいます。
飲酒は、アルコールを分解されるさいに放出されるアセトアルデヒドが中性脂肪の分解を抑制させるため中性脂肪が蓄積されてしまいます。
内因性、特発性によるもの
高TG血症の原因の多くは生活習慣など続発性によるものですが例外もあります。
内因性高TG血症(家族性Ⅳ型高脂血症)は、超低比重リポ蛋白の増加による脂質異常症のひとつです。ただし、現時点で遺伝的要因は明らかにされていません。
特発性TG血症は、原因不明の病気ですが、自己免疫などの関与が推測されています。
高TG(トリグリセライド)血症の診断
高TG(トリグリセライド)血症の診断基準は以下のとおりです。検査には空腹時採血が用いられ、10~12時間の絶食後(水、お茶などの摂取は可能)の血液を検査します。
LDL コレステロール (LDL-C) |
140mg/dL 以上 |
高LDL コレステロール 血症 |
---|---|---|
120~ 139mg/dL |
境界域高LDL コレステロール 血症 |
|
HDL コレステロール (HDL-C) |
40mg/dL 未満 |
低HDL コレステロール 血症 |
トリグリセライド (TG) |
150mg/dL 以上 |
高トリグリセライド 血症 |
1)
高TG(トリグリセライド)血症の治療
高TG血症の治療では、食事療法、運動療法、薬物療法の3つが用いられます。
食事療法
まず、肥満者においては1日のエネルギー摂取量の見直しと適正体重の維持を行うことは、動脈硬化の予防につながるとされており推奨されています。2)
1日のエネルギー摂取量の見直しには自身の「1日の適正エネルギー量※」を知ることが大切です。
※「1日の適正エネルギー量=目標体重 ※1」×エネルギー係数 ※2」
※1 目標体重=身長(m)×身長(m)×22
※2 エネルギー係数
労作の強度 | エネルギー係数 |
---|---|
軽い労作 (大部分が座位の静的活動) |
25~30 (kcal/kg目標体重) |
普通の労作 (通勤・家事、軽い運動を含む) |
30~35 (kcal/kg目標体重) |
重い労作 (力仕事、活発な運動習慣 |
35~ (kcal/kg目標体重) |
例えば、身長160㎝の適度な身体活動のある生活をおくっている人の場合。
目標体重は「1.6m×1.6×22=56㎏」となります。
エネルギー係数は「普通の労作=30~35」となり式にあてはめると。
「56㎏×30~35=1680~1960㎉」となり、1日あたりの摂取エネルギーの目安が分かります。3)
運動療法
高TG血症に対する運動療法は有酸素運動が中心となります。
有酸素運動は、脂肪燃焼の効果が高く中性脂肪やコレステロール値の減少に効果が期待できる手軽に行えるエクササイズです。4)
推奨される運動量は、できる限り毎日30分以上の有酸素運動。運動強度は中等度強度で、軽く息があがるほどのウォーキング、ジョギング、水中運動などが推奨されています。1)
薬物療法
食事療法と運動療法を行っても中性脂肪値に目立った改善がみられない場合は薬物療法が用いられます。
高TG血症に用いられることの多い薬剤は以下のとおりです。
フィブラート系製剤
フィブラート系製剤は、体内の脂質の流れを活性化させ中性脂肪の合成を阻害する薬剤です。
ただし、糖尿病薬やワーファリンなどとの併用は悪影響を及ぼす可能性も報告されており注意が必要となる薬剤です。
ニコチン酸誘導体製剤
中性脂肪の合成を抑える薬剤です。
中性脂肪、LDLコレステロール値の低下と、HDLコレステロール値の増加が期待できます。
ニコチン酸はビタミンB1の一種で、副作用が出づらい薬剤であることも特徴です。
顔のほてりや熱っぽさなどが出ることがありますが1~2週間ほどでおさまります。
EPA
EPA(イコサペント酸エチル)とは魚や魚油に含まれる多価不飽和脂肪酸と同様の成分を含んだ中性脂肪を下げる薬剤です。
副作用や注意点は、EPAには血液が血管内で固まることを防ぐ作用があるため、アスピリンやワーファリンなどと併用を行うと必要以上に血が止まりにくくなるリスクがあります。
高TG(トリグリセライド)血症の予防と注意事項
高TG血症の予防は治療法と同様に生活習慣の改善が中心となります。
できる限り運動や身体活動を向上させ、日本食を主体とした食生活を心掛けることが大切です。
また、高TG血症をはじめとした脂質異常症は自覚症状が出づらい病気です。
気づかないうちに動脈硬化が進んでしまい、心筋梗塞や脳卒中などを発症してしまわないよう、健康診断などの定期検査を忘れずに受ける必要があります。
高TG(トリグリセライド)血症の大規模臨床試験
脂質代謝異常症における大規模臨床試験において、高TG血症と関連のある興味深い試験結果をご紹介します。
EPAを用いた試験
EPA(イコサペント酸エチル)はイワシやサバなどに含まれる多価不飽和脂肪酸と同じ成分を含んだ中性脂肪を下げる薬剤です。
このEPAを、総コレステロール250mg/dl以上の脂質異常症の患者18,645例(女性69%)を対象に投与群と非投与群を無作為に割り付けて実施された試験があります。
なお、全対象者にスタチン系製剤を5mg/日または10mg/日投与しています。
結果は、冠動脈疾患の発症が非投与群では324人に対して、投与群では282人と有意に低い結果となっており、とくに不安定狭心症の発症は非投与群では193人に対して、投与群では147人と有意に低い報告がされています。
欧米と比較して日本では魚を積極的に食べる文化があり、冠動脈疾患での死亡率が欧米よりも低い理由として日本食文化が挙げられてきましたが、この試験ではそれを証明する結果が報告される形となっています。5)