低HDLコレステロール血症とは
低HDLコレステロール血症とは、血中のHDLコレステロール値が基準値よりも低値を示す「脂質代謝異常症」のなかのひとつです。
コレステロールと聞くと、高い方が体に悪い印象を持たれる方も多いですが、HDLコレステロールとは善玉コレステロールとも呼ばれ、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を下げ動脈硬化のリスクを抑えてくれるため高値であることが望ましいコレステロールです。
反対に、HDLコレステロール値が低値になると、LDLコレステロール値が高値になりやすく動脈硬化による心筋梗塞、脳卒中などの発症リスクが高まります。
国内での低HDLコレステロール血症を含む脂質異常症の患者数は、220万5000人。
女性は、男性の2.4倍の割合で多い患者数(女性156万5,000人、63万9,000人)となっています。1)
低HDLコレステロール血症の原因
低HDLコレステロール血症の原因の多くは生活習慣や成長過程で発症した病気など続発性によるものです。しかし、なかには稀に生まれつきHDLコレステロールが低値を示す場合や難病(アポリポタンパクA-Ⅰ異常症、タンジール病)が原因で低HDLコレステロール血症が発症されることもあります。
生活習慣
HDLコレステロールは中性脂肪(トリグリセライド)と連動しています。つまり、中性脂肪が上昇するとHDLコレステロールは低下するのです。
これらの主な原因は肥満や喫煙、飲酒などの生活習慣。これらは動脈硬化のリスクを高め、心筋梗塞、脳卒中の発症を高めます。
また、飲酒にはHDLコレステロールを高値にする報告もありますが、血圧上昇や肝臓への負担を考慮するとデメリットの方が明らかに大きいため、HDLコレステロールの改善のためにアルコール摂取を行うことはおすすめできません。
他疾患
他疾患が原因でHDLコレステロールが低値を示すことがあります。
代表的な糖尿病では、インスリンの作用が低下するためHDLコレステロールが産生されづらく、分解されるためHDLコレステロールが低下します。また、肝臓や甲状腺系の疾患でもHDLコレステロールが低値を示すことが特徴です。
低HDLコレステロール血症の診断
低HDLコレステロール血症の診断基準は以下のとおりです。検査には空腹時採血が用いられ、10~12時間の絶食後(水、お茶などの摂取は可能)の血液を検査します。
LDL コレステロール (LDL-C) |
140mg/dL 以上 |
高LDL コレステロール 血症 |
---|---|---|
120~ 139mg/dL |
境界域高LDL コレステロール 血症 |
|
HDL コレステロール (HDL-C) |
40mg/dL 未満 |
低HDL コレステロール 血症 |
トリグリセライド (TG) |
150mg/dL 以上 |
高トリグリセライド 血症 |
低HDLコレステロール血症の治療
低HDLコレステロール血症は、食事療法、運動療法、薬物療法の3つの治療法が中心となります。
食事療法
HDLコレステロール値は、中性脂肪(トリグリセライド)と連動することが多いため、中性脂肪(トリグリセライド)を増加させない食事に気を付けことでHDLコレステロール値の上昇が望めます。2)
たとえば、単純にエネルギー量の摂り過ぎによる肥満。肉類の脂肪部分や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸の過剰摂取などは中性脂肪(トリグリセライド)を増加させ、HDLコレステロール値を低下させます。
また、飲酒はHDLコレステロール値を上昇させる働きがありますが、肝臓への負担、高血圧のリスクなどを考えると、HDLコレステロール値の上昇のための飲酒は控えるべきです。2)
運動療法
適度な運動を行うことは、HDLコレステロール値の上昇、中性脂肪(トリグリセライド)の低下による動脈硬化の予防に繋がります。
目安は、週180分の運動を目標として、30分以上の有酸素運動をできる限り毎日実施することが望ましいです。
運動強度は、最大酸素摂取量の50%を目標として、少し息があがるほどのウォーキングやランニングなどを行うことが推奨されています。2)
また、肥満者の場合は減量を行い適正体重※)の維持を図ることも大切です。
※)適正体重=身長(m)×身長(m)×22
薬物療法
食事療法と運動療法で思うような効果がでない場合は薬物療法を行います。
HDLを上昇させるための薬物療法は行いませんが、高LDLコレステロール血症や高中性脂肪(トリグリセライド)血症に対して治療を行うことでHDL値が改善する効果が期待できます。
スタチン系製剤
コレステロールの体外への排出を促進させる薬剤です。コレステロールを体外へ排出させ、肝臓のコレステロールが減少することで血中のコレステロールが肝臓へ取り込まれるためLDLコレステロール値が低下し、HDLコレステロール値が増加する効果が期待できます。
主な副作用は、便秘、吐き気、腹部膨満感です。
フィブラート系製剤
中性脂肪の合成を阻害する薬剤です。先述したように中性脂肪とHDLコレステロールは連動することが多いため、中性脂肪の低下とともにHDLコレステロール値の増加を図ることができます。
ただし、糖尿病薬やスタチン製剤との併用は悪影響を及ぼす可能性も報告されており注意が必要となる薬剤です。
ニコチン酸誘導体製剤
中性脂肪の合成を抑える薬剤です。中性脂肪、LDLコレステロール値の低下とともに、HDLコレステロールの増加が期待できます。
副作用が出づらい薬剤で、顔のほてりや熱っぽさなどが出ることがありますが数日から2週間ほどでおさまります。3)
低HDLコレステロール血症の予防や注意事項
低HDLコレステロール血症の予防法は高LDLコレステロール血症や高トリグリセライド(TG)血症と同様に食事や運動をはじめとした生活習慣に気を付けることです。
とくに食事は、日本食を中心に野菜、魚類、果物を中心にバランスの良い栄養摂取が推奨されています。
また、低コレステロール血症をはじめとした脂質異常症では日常生活のなかで目立った自覚症状を感じることのない病気です。
気づかないうちに脳心血管の発症リスクを高めてしまうことのよう、健康診断などの定期的な検査を受けて自身のコレステロール値を把握、管理してく必要があります。
低HDLコレステロール血症の大規模臨床試験
国内において、低HDLコレステロール血症に特化した大規模臨床試験はありませんが、興味深いデータをご紹介します。
スタチン製剤を用いた大規模臨床試験
J-LITでは、全国から総コレステロール220mg/dl以上の52,421例を対象に、シンバスタチン5mg/day(重症例は10 mg/day)を投与し追跡を6年間実施。
6ヶ月後の各数値は、HDLコレステロールは2.3%上昇、LDLコレステロールは26.0%低下、中性脂肪(トリグリセライド)は14.7%低下し、6年間の数値の継続が報告されています。
また、脳卒中や心筋梗塞などの主要血管イベントも同臨床試験において、一次予防例ではHDL-コレステロール 50 mg/dl以上で有意に減少、40 mg/dl未満で有意に増加し、LDL-コレステロール160 mg/dl以上で有意に増加、中性脂肪300 mg/dl以上で有意に増加していることから、HDLコレステロール値をはじめとした数値の管理が脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを抑えてくれる報告がされています。
ご覧のように、低HDLコレステロール血症に特化した大規模臨床試験は実施されていません。
また、現時点でLDLコレステロール値がスタチン製剤で適切に管理されている場合、HDLコレステロールを上昇させる薬剤による脳心血管イベントの抑制効果は確認できていないことから、LDLコレステロール値、中性脂肪(トリグリセライド)を含めた総合的な数値の管理を行うことの重要性が判ります。4)
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