糖尿病治療薬「ジャヌビア(シタグリプチンリン)」選択的DPP-4阻害薬

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ジャヌビアとは?

ジャヌビアの写真

ジャヌビア(一般名:シタグリプチンリン酸塩水和物)は、インクレチン(消化管ホルモンの一種)を分解するDPP-4という酵素を選択的に阻害する薬剤です。
インクレチンは、インスリンの分泌を促す作用と肝臓における糖の産生を抑制する作用を併せ持つホルモンです。
ジャヌビアは、DPP-4を選択的に阻害してインクレチンの濃度を上昇させ、結果として血糖低下作用を示します。
ちなみに、「ジャヌビア(JANUVIA)」という名称は、「JANUS(ヤヌス、二つの顔を持つ神)」+「via(道)」から命名されたとのことです。
なお、併売品である「グラクティブ」は、錠剤の刻印やシートは異なるものの、主成分・添加物ともまったく同じです。

ジャヌビアの特徴

適応疾患・用法用量

ジャヌビアは、2型糖尿病に適応があります。
通常、成人には1日1回50mgを投与します。効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら 1日1回100mgまで増量できます。

血糖降下作用

非薬物療法(食事療法+運動療法)を行っても十分な血糖コントロールが得られない2型糖尿病の方を対象とした臨床試験では、ジャヌビアの投与開始から2週間後にはHbA1c値が有意に低下して、投与開始初期から血糖コントロールが改善されました。また、別の臨床試験では、長期にわたって安定した血糖コントロールが得られています。

治療上のメリット

ジャヌビアは従来の糖尿病治療薬とは作用機序が異なるため、インスリン注射薬をはじめとしたほとんどの糖尿病治療薬と併用できます。
また、血糖に依存して作用が発現するため、低血糖を起こしにくいという特徴もあります。一方で食欲増進作用がないため、体重増加をまねきにくいというメリットもあります。
さらに、食事の影響を受けないことから、ライフスタイルに合わせて服用時間を決められるのも大きなメリットです。

ジャヌビアを服用する上での注意点

ジャヌビアを服用できない方

以下に該当する場合は、ジャヌビアの服用が禁忌とされています。

  • ジャヌビアの成分に過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
  • 重症ケトーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡、1型糖尿病の方(輸液およびインスリンによるすみやかな高血糖の是正が必須となるため、ジャヌビアを投与すべきではありません。)
  • 重症感染症、手術前後、重篤な外傷がある場合(インスリン注射による血糖管理が望まれるため、ジャヌビアの投与は適しません。)

服用に注意が必要な方

以下の場合は、ジャヌビアの服用に注意が必要です。

  • 低血糖を起こすおそれがある以下の場合(ジャヌビアの服用で低血糖の発生リスクが高くなります)
  • 脳下垂体機能不全または副腎機能不全がある場合
  • 栄養不良状態、飢餓状態、不規則な食事摂取、食事摂取量の不足または衰弱状態の場合
  • 激しい筋肉運動を行う場合
  • 過度のアルコール摂取がある場合
  • 高齢の方の場合
  • 腹部手術の既往または腸閉塞の既往がある場合(重大な副作用の一つである腸閉塞を起こすおそれがあります。)

その他、腎機能障害がある方なども、ジャヌビアの服用には注意が必要です(参照:特定の患者さまへの使用に関して)。

ジャヌビアの副作用

おもな副作用として、便秘や腹部の張り、めまい、発疹などが報告されています。
また、重大な副作用として、低血糖、肝機能障害や黄疸、急性腎障害、間質性肺炎、腸閉塞、横紋筋融解症などが報告されています。重大な副作用が発生することは稀ですが、下記のような症状があらわれた場合は適切な処置を行ったり受診したりしてください。

アナフィラキシー反応 呼吸困難、じんましん、
目や口唇まわりの腫れ
皮膚粘膜眼症候群
(Stevens-Johnson症候群)
、剥脱性皮膚炎
発熱、紅斑、眼の充血
低血糖 めまい、冷や汗、脱力感、動悸、
手足のふるえ、強い空腹感
肝機能障害、黄疸 食欲不振、全身のだるさ、
皮膚や白目が黄色くなる
急性腎障害 尿量の減少、全身のむくみ、
体のだるさ
急性膵炎 激しい上腹部の痛み、
腰や背中の痛み、吐き気
間質性肺炎 発熱、空咳、呼吸困難
腸閉塞 ひどい便秘、腹部の張り、
持続する腹痛、嘔吐
横紋筋融解症 筋肉痛、脱力感、こわばり、
しびれ、赤褐色の尿
血小板減少 血が止まりにくい、皮下出血
類天疱瘡 水疱、びらん、紅斑

日常生活における注意点

他の治療薬との併用に関して

添付文書上、ジャヌビアとの併用が禁忌となっている薬剤はありません。しかし、糖尿病治療薬や血糖降下作用に影響を与える薬などとの併用には注意が必要です。他の医療機関で下記のような薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。

  • 糖尿病用薬:血糖降下作用が増強され、低血糖のリスクが増加するおそれがあります。
  • ジゴキシン(心不全や頻脈などの治療薬):ジャヌビアとの併用で、ジゴキシンの血漿中濃度がわずかに増加したとの報告があります。
  • 血糖降下作用を減弱する薬剤(例:副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、アドレナリンなど):血糖降下作用が減弱されるおそれがあります。

なお、フルイトランはアルコールと併用すると降圧作用が増強されるおそれがあるため、アルコールとの併用にも注意が必要とされています。

特定の患者さまへの使用に関して

腎機能障害がある方への使用

ジャヌビアはおもに腎臓から排泄されますが、その排泄には能動的な尿細管分泌の関与が推察されています。
そのため、中等度または重度腎機能障害がある方・血液透析または腹膜透析を要する末期腎不全の方に投与する場合は、適切な用量調節を行いながら慎重に治療を進めていきます。

妊娠中の方への使用

ジャヌビアは、動物を対象とした試験で、胎児の肋骨の欠損や形成不全、波状肋骨の発現率が軽度増加したと報告されています(投与量は1,000mg/kg/日(臨床での最大投与量100mg/日の約100倍に相当))。
したがって、妊娠中の方や妊娠している可能性のある方には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみジャヌビアの投与を考慮します。

授乳中の方への使用

ジャヌビアは、動物を対象とした試験で乳汁中への移行が報告されています。
そのため、ジャヌビアを授乳中の方へ使用する場合は、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮したうえで、授乳の継続または中止を検討します。

お子さまへの使用

ジャヌビアは、小児などを対象とした臨床試験を実施していません。
ご家庭ではお子さまの誤服用を防ぐため、保管場所などにご注意ください。

ご高齢の方への使用

高齢の方では、腎機能が低下していることも少なくありません。
そのため、高齢の方へジャヌビアを使用する場合は、適切な用量調整を行うなどして、慎重に治療を進めていきます。

低血糖に関する注意点

ジャヌビアの服用で血糖が低くなり過ぎると、低血糖症状があらわれることがあります。特に他の糖尿病治療薬を併用している場合は、低血糖のリスクが高くなります。低血糖の症状があらわれたら、すぐにブドウ糖や砂糖を含む飲料水などを摂取してください。
糖分を摂っても症状が回復しない場合は、すみやかに受診してください。また、症状が回復した場合でも、次回受診日には低血糖症状があらわれたことを必ず報告してください。

ジャヌビアの患者さま負担・薬価について

ジャヌビアには、12.5mg・25mg・50mg・100mgの4規格があります。各規格の薬価は以下のとおりです。

ジャヌビア錠12.5mg 52.9円/錠
ジャヌビア錠25mg 63.6円/錠
ジャヌビア錠50mg 117.9円/錠
ジャヌビア錠100mg 174.6円/錠

患者さまにご負担いただく薬剤費は、保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがジャヌビア錠50mgを1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は1061.1円になります(薬剤費のみの計算です)。
なお、併売品であるグラクティブの薬価はジャヌビアより若干高く(0.1円/錠~1.9円/錠)設定されています。

よくあるご質問

以前、ジャヌビアに発がん物質が含まれていると聞いたのですが……。不安なので、飲むのをやめてもいいですか?

2022年9月、ジャヌビアなどシタグリプチンを含む製品で、ニトロソアミン類に分類される「NTTP」という化学物質の含有が確認されました。
一般的にニトロソアミン類は発がん性を有する可能性があるとされていますが、NTTPが発がん性を有するかは明らかになっていません。ただ、2022年に確認されたNTTPの量は米国食品医薬品局(FDA)の暫定基準を下回っているため、発がんリスクの増加は最小限と考えられます。
また、メーカーによると「科学的および医学的なリスク評価にもとづき、現在確認されているNTTPレベルでは、これらの薬剤を長年服用している患者さんを含め、安全性に対するリスクはほとんどない」とのことです。
そのため、NTTPの含有を理由にジャヌビアの服用を中止する必要はありません。むしろ、治療を中断するとさまざまな合併症を発症するリスクが高まるため、自己判断で服用を中止しないようにしてください。

ジャヌビアは食事の影響を受けないので、いつ飲んでもいいんですよね。では、毎日時間を決めずに飲んでもいいんですか?

たしかに、ジャヌビアは食事の影響をほとんど受けません。しかし、日によってジャヌビアの服用時間が異なると安定した血中濃度を得ることが難しくなります。また、服用間隔が短くなると(例:1日目は就寝前服用、2日目は起床時に服用、など)、ジャヌビアの血中濃度が高くなり過ぎて副作用の発現リスクが高くなります。
したがって、毎日できるだけ同じ時間(処方時に指示された用法通り)に服用してください。

ジャヌビアを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?

ジャヌビアを飲み忘れた場合は、気が付いたときにすぐ1回分を飲んでください。ただし、次に飲む時間が近い場合は服用せず、次の服用時間に1回分を服用してください。その際、絶対に2回分を一度に飲んではいけません。薬の服用量が多すぎると、副作用の発現リスクが高くなります。

 

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