慢性腎臓病治療薬「ケレンディア(フィネレノン)」非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

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ケレンディアとは?

ケレンディアの写真

ケレンディア(一般名:フィネレノン)は、腎臓や心血管系の炎症や線維化、ナトリウムの貯留や臓器肥大をまねくミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性を抑える薬剤です。

細胞内のMRはアルドステロンによって活性化され、電解質の貯留・排泄を調節していますが、ケレンディアはMRに結合して過剰に活性化されるのを防ぎ、腎臓や心臓の機能低下を抑えます。

なお、「ケレンディア(Kerendia)」という名称は、「Cardio(心臓)」、「Renal(腎臓)」、「Diabetes(糖尿病)」に由来する造語です。

ケレンディアの特徴

使用上のメリット

糖尿病を合併する慢性腎臓病は、血行動態や代謝、炎症および線維化が、心血管・腎臓障害の発症や進展に関与すると考えられています。
しかし、これらの疾患に対する既存治療のターゲットは、おもに血行動態または代謝です。

一方、ケレンディアは、炎症および線維化をおもな標的としています。
そのため、新たな治療の選択肢として期待されています。

なお、ケレンディアと同系統の薬剤としては、スピロノラクトン(商品名:アルダクトンAなど)やエプレレノン(商品名:セララなど)、エサキセレノン(商品名:ミネブロ)がありますが、慢性腎臓病に適応があるのはケレンディアのみです。

臨床効果

慢性腎臓病に対する効果

2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の方を対象とした国際共同試験では、ACE阻害薬/ARBを含む標準治療へのケレンディアの上乗せ投与により、腎不全の発症および腎機能の低下、腎臓死の発現リスクがプラセボ群に比べて有意に低下することが示されました。
また、同様の試験によって、心血管死や非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中および心不全による入院の発現リスクがプラセボ群に比べて有意に低下することも示されています。

慢性心不全に対する効果

心不全の方を対象とした国際共同試験では、ケレンディアの投与により、心血管死および心不全による入院または緊急受診のリスクが有意に減少したことが示されています。
この結果をもとに、ケレンディアの製造販売元であるバイエル薬品は、2025年2月に「慢性心不全」の適応追加を厚生労働省に承認申請しています。

ケレンディアの効能効果・用法用量

ケレンディアは、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病に適応があります。
ただし、末期腎不全または透析施行中の方には使用できません。

通常、成人にはeGFRの値に応じて以下の用量を1日1回投与します。
eGFRとは「推算糸球体ろ過値(estimated Glomerular Filtration Rate)」のことで、腎臓の機能を表す指標の一つです。

  • eGFRが60mL/min/1.73m2以上:20mg
  • eGFRが60mL/min/1.73m2未満:10mgから投与を開始し、血清カリウム値、eGFRに応じて投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量。

なお、投与後も定期的に血清カリウム値およびeGFRを測定し、用量を調節していきます。

ケレンディアを服用する上での注意点

ケレンディアを服用できない方

以下の場合はケレンディアを服用できません。

  • ケレンディアの成分に対して過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
  • ケレンディア投与開始時に、血清カリウム値が5.5mEq/Lを超えている場合(高カリウム血症を増悪させるおそれがあります。)
  • 重度の肝機能障害がある場合(ケレンディアの血中濃度が上昇するおそれがあります。)
  • アジソン病の方(ケレンディアの作用により、病態が悪化するおそれがあります。)
  • CYP3Aを強く阻害する薬剤(イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、リトナビルを含有する製剤、アタザナビル、ダルナビル、ホスアンプレナビル、コビシスタットを含有する製剤、クラリスロマイシン、エンシトレルビル)を投与中の場合(ケレンディアの血中濃度が著しく上昇するおそれがあります。)

ケレンディアの服用に注意が必要な方

血清カリウム値が高い方や高カリウム血症の発現リスクが高い方については、高カリウム血症の増悪や発現のおそれがあるため、投与の適否を慎重に判断したり頻回に血清カリウム値を測定したりするなどして慎重に治療を進めていきます。

その他、重度の腎機能障害がある方、禁忌には該当しないものの肝機能障害がある方、妊娠可能年齢の女性や妊娠中・授乳中の方なども、ケレンディアの服用には注意が必要です(参照:特定の患者さまへの使用に関して)。

ケレンディアの副作用

ケレンディアの副作用として、低血圧や低ナトリウム血症、高尿酸血症などが報告されています。

その他、重大な副作用として高カリウム血症が報告されています。

ケレンディアの服用にともない、手足や唇のしびれ・筋力の低下・脱力感・手足の麻痺・吐き気や嘔吐・下痢・腹部の張りなどがあらわれた場合は高カリウム血症の初期症状である可能性が否定できないため、すぐに受診して適切な治療を受けてください。

日常生活における注意点

併用してはいけない薬剤

ケレンディアは、CYP3Aを強く阻害する薬剤とは併用できません。
これは、併用によりケレンディアの血中濃度が著しく上昇するおそれがあるためです。

添付文書上、併用禁忌とされているのは以下の薬剤です。

イトラコナゾール(抗真菌薬)、ポサコナゾール(抗真菌薬)、ボリコナゾール(抗真菌薬)、リトナビル含有製剤(抗ウイルス薬)、ダルナビル(抗ウイルス薬)、ホスアンプレナビル(抗ウイルス薬)、コビシスタット含有製剤(抗ウイルス薬)、クラリスロマイシン(抗生剤)、エンシトレルビル(コロナウイルス感染症治療薬)。

併用に注意が必要な薬剤

併用禁忌薬以外で注意が必要な薬剤は以下のとおりです。
他の医療機関で以下の薬剤を処方されている場合は、診察時にご相談ください。
また、他の医療機関で治療を受ける場合は、ケレンディアを服用していることを伝えてください。

  • エリスロマイシン(抗生剤)、ベラパミル(不整脈や狭心症などの治療薬)、フルコナゾール(抗真菌薬)、アミオダロン(不整脈の治療薬)、フルボキサミン(うつ病などの治療薬)など:ケレンディアの血中濃度が上昇するおそれがあります。
  • リファンピシン(結核などの治療薬)、カルバマゼピン(てんかんや三叉神経痛などの治療薬)、フェニトイン(抗てんかん薬)、フェノバルビタール(てんかん発作などの治療薬)、エファビレンツ(抗ウイルス薬)、ミトタン(副腎がんやクッシング症候群の治療薬):ケレンディアの血中濃度が著しく低下し、効果が減弱するおそれがあります。
  • スピロノラクトン(利尿薬)、トリアムテレン(利尿薬)、カンレノ酸カリウム(利尿薬)、エプレレノン(高血圧症や慢性心不全の治療薬)、エサキセレノン(高血圧症の治療薬)、カリウム製剤、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(合成抗菌薬):血清カリウム値の上昇および高カリウム血症が発現する危険性が増大するおそれがあります。
  • 炭酸リチウム(双極性障害などの治療薬):リチウム中毒をまねくおそれがあります。
  • 非ステロイド性消炎鎮痛薬:腎機能障害のある方で、高カリウム血症があらわれるおそれがあります。
  • ミトタン(副腎がんやクッシング症候群の治療薬):類薬で、ミトタンの効果が阻害されたという報告があります。

グレープフルーツ含有食品やセントジョーンズワートとの併用に関して

ケレンディアは、グレープフルーツジュースなどグレープフルーツの成分を含む食品との併用に注意が必要です。
両者を併用すると、ケレンディアの血中濃度が上昇するおそれがあります。

健康食品やハーブティーなどに含まれるセントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)との併用にも注意が必要です。
両者を併用すると、ケレンディアの代謝が促進されて効果が減弱するおそれがあります。

予期せぬ副作用を防ぐためにも、ケレンディアを服用している間はグレープフルーツ含有食品やセントジョーンズワートを含む食品・茶類などを摂取しないようにしてください。

特定の患者さまへの使用に関して

重度の腎機能障害がある方

ケレンディアの投与で腎機能が低下することがあるため、重度の腎機能障害がある方については投与の適否を慎重に判断します。
また、ケレンディア投与中に末期腎不全または透析に至った場合は、高カリウム血症の発現リスクが高まるおそれがあるため、ケレンディアの投与を中止します。

肝機能障害がある方への使用

ケレンディアは、重度の肝機能障害がある方への投与が禁忌とされています。
これは、ケレンディアの血中濃度が上昇するおそれがあるためです。

中等度の肝障害がある方への投与は禁忌とされていませんが、血清カリウム値を頻回測定するなど状態の変化を見ながら慎重に治療を進めていきます。

妊娠可能な年齢の女性および妊娠中の方への使用

高用量のケレンディアを動物へ投与した試験では、催奇形性や胚・胎児毒性(胎児体重の減少)、受胎能への影響(卵巣重量の低値)、児の自発運動量増加(軽度)が確認されています。

そのため、妊娠可能な女性に対しては、ケレンディアの投与中は妊娠を避けるように指導しています。

また、妊娠中または妊娠している可能性のある方には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討します。

授乳中の方への使用

ケレンディアは、動物を対象とした試験で乳汁への移行が確認されているほか、大量投与で授乳期の児に明らかな有害作用(死亡率の増加)が認められています。
したがって、ケレンディアを授乳中の方へ使用する場合は、授乳を避けるように指導します。

お子さまへの使用

ケレンディアは、小児などを対象とした臨床試験を実施していません。
また、安全性も確立していません。
ご家庭ではお子さまの誤服用を避けるため、保管場所や保管方法にご注意ください。

ケレンディアの患者さま負担・薬価について

ケレンディアには10mgと20mgの2つの規格があります。各規格の薬価は以下のとおりです。

剤型 薬価
ケレンディア錠10mg 143.9円/錠
ケレンディア錠20mg 205.8円/錠

なお、患者さまにご負担いただく薬剤費は保険割合によって変わります。
例えば、3割負担の患者さまがケレンディア錠20mgを1日1回30日分処方された場合、ご負担金額は1,852.2円になります(薬剤費のみの計算です)。
よくある質問

よくあるご質問

ケレンディアの副作用を防ぐために、血液検査の回数が増えるかもしれないといわれました。
どのような場合に血液検査が増えるのでしょうか。

ケレンディアを服用すると、血清カリウム値が高くなるおそれがあります。

特に、腎機能が落ちている方・治療前から血清カリウム値が高めの方・高カリウム血症の既往歴がある方・中等度の肝機能障害がある方・ケレンディアの血中濃度が高くなりやすい薬を併用している方・カリウム製剤を併用している方は高カリウム血症のリスクが高いため、短い間隔で検査を行う可能性があります。

上記に該当しない方についても定期的な血液検査は必要ですので、ご了承ください。

ケレンディア服用中に高カリウム血症にならないようにするためには、どのようなことに注意したらよいですか?

ミネラルバランスを整えたり脱水を防いだりするために、水分をしっかり摂ってください。
また、通常の食事ができないとき(手術前後、悪心・嘔吐・下痢など)は、主治医に連絡してください。

そして、ナトリウムの代わりにカリウムを使っている調味料(減塩しょうゆなど)や食品を摂らないようにしてください。
カリウムを多く含む食材(生野菜、芋類、果物など)も摂り過ぎないようにしましょう。

その他、グレープフルーツ含有食品も避けてください。
グレープフルーツ含有食品を摂取すると、ケレンディアの血中濃度が高くなって副作用が発生するリスクが高くなります。

ケレンディアを飲み忘れた場合はどうすればいいですか?

ケレンディアを飲み忘れた場合は、気が付いたときにすぐ1回分を飲んでください。
ただし、次の服用時間が近いときは1回分の服用を飛ばし、次の服用タイミングで1回分を服用してください。
その際、絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

 

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記事制作者

木村眞樹子

東京女子医科大学卒業。循環器内科専門医内科、睡眠科において臨床経験を積む。
東洋医学を取り入れた漢方治療にも対応。
オンライン診療に積極的に取り組む3児の母。