エピペンとは?
エピペン(一般名:アドレナリン)は、蜂毒などの虫刺されや食物アレルギー、薬物などに起因するアナフィラキシー反応に対して用いられる自己注射薬です。交感神経のα・β受容体に作用して強心作用や血圧上昇作用を示し、気管支を拡張させて呼吸量を増加させる作用を有します。
エピペンの特徴
エピペンは、アナフィラキシーショックの救急治療の第一次選択剤です。アナフィラキシー症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐ補助治療薬として用いられます。
もっとも、エピペンはアナフィラキシーを根本的に治療するものではなく、医療機関での治療に代わり得るものでもありません。そのため、エピペンを使用したら直ちに診療を受ける必要があります。
エピペンの仕組み
エピペンは、注射針一体型の自己注射器です。注射器には薬液(アドレナリン)や安全装置などがセットされ、オレンジ色の先端を太ももの前外側に強く押し付けるだけで一定量(約0.3mL)の薬液が筋肉内に注射される仕組みになっています。また、安全性に配慮して、使用前も使用後も針が露出しない構造になっています。なお、エピペンは片手で簡単に開けられるワンタッチ式の携帯型ケースに収められています。
エピペンの剤型
エピペンには、体重に応じた2つの剤型があります。
携帯型ケースのキャップおよび本体のラベル部分が黄色いのがエピペン注射液0.3mgです。こちらは、体重30kg以上の方に処方されます。一方、携帯型ケースのキャップおよび本体のラベル部分が黄緑色になっているのがエピペン0.15mgです。こちらは、体重15kg以上30kg未満の方に処方されます。
当院におけるエピペンの処方について
エピペンは緊急時に使用できるように常に携帯してください。エピペンには使用期限があり、使わないまま使用期限が過ぎた場合には、新しい薬剤を入手する必要があります。今までエピペンを処方されたことがある方であれば、当院ではオンライン診療で処方が可能です。
当院ビルにある調剤薬局では、ご自宅への薬剤無料配送も行っております。お手元のエピペンの使用期限をご確認いただき、ご希望の方は下記リンクからオンライン診療をお申込みください。なお未使用のエピペンは医療廃棄物になりますので廃棄方法についてもあわせてご相談ください。
» オンライン診療の詳細はこちら(初診可)
エピペンの対象患者さん・使用すべき症状について
エピペンの対象となるのは、アナフィラキシーの既往のある方、またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い方です。
エピペンが処方されている方に以下のような症状(アナフィラキシーショックが疑われる症状)が1つでもあらわれたら、できるだけ早くエピペンを注射して救急車を呼んでください。
エピペンの使用方法
準備
携帯用ケースのカバーキャップを指で押し開け、エピペンを取り出してください。
オレンジ色のニードルカバーを下に向けて、エピペン本体のまん中を片手でしっかりと握り、もう片方の手で青色の安全キャップを外してロックを解除します。
注射
エピペンのオレンジ色のニードルカバーを、太ももの前外側に垂直になるように押しあてます。緊急時は、衣服の上から押しあてても構いません。ニードルカバーの先端を「カチッ」と音がするまで強く押し続けます。エピペンを太ももに押し付けたまま数秒間待ち、その後太ももから抜き取ります。
確認・片付け
注射後、オレンジ色のニードルカバーが伸びていることを確認します。ニードルカバーが伸びていれば注射完了です(針はニードルカバー内にあります)。ニードルカバーが伸びていない場合は、注射は完了していません。再度、太ももの前外側にニードルカバーを押しあて、注射を完了してください。
エピペン注射後、直ちに医師による診療を受けてください。医師には、エピペンを使用したことを必ず伝えてください。使用済みのエピペンを、オレンジ色のニードルカバー側から携帯用ケースに戻してください。なお、注射後はニードルカバーが伸びているため、携帯用ケースのふたは閉まりません。
エピペンの使用上の注意点
エピペンを打ってはいけない例
以下の場合は原則としてエピペンを使用しません。ただし、ショックなど生命の危機に直面しており、緊急時に用いる場合にはこの限りではありません。
- エピペンの成分に対しアレルギー歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
- 交感神経作動薬に対し過敏な反応を示すおそれがある場合(アドレナリン受容体が本剤に対して高い感受性を示すおそれがあります。)
- 動脈硬化症がある場合(アドレナリンの血管収縮作用で、冠動脈や脳血管などの攣縮および基質的閉塞があらわれるおそれがあります。)
- 甲状腺機能亢進症がある場合(頻脈、心房細動がみられることがあり、本剤の投与で症状が悪化するおそれがあります。)
- 糖尿病の場合(高血糖をまねくおそれがあります。)
- 心室性頻拍などの重症不整脈がある場合(不整脈を悪化させるおそれがあります。)
- 精神神経症がある場合(症状悪化をまねくおそれがあります。)
- コカイン中毒の場合(アドレナリンの作用が増強されるおそれがあります。)
- 投与量が0.01mg/kgを超える場合(0.15mg製剤については体重15kg未満、0.3mg製剤については体重30kg未満の場合)(過量投与になるため、通常のアドレナリン注射液を用いて治療する必要があります。)
エピペンの副作用
エピペンのおもな副作用としては、動悸・頭痛・めまい・不安・振戦・過敏症状・吐き気や嘔吐・熱感・発熱などがあります。また、まれに呼吸をしにくい・脈拍数の増加・不整脈などの症状があらわれることもあります。これらの症状があらわれた場合は、早急に診療を受けてください。
エピペンの携帯時・保管上の注意点
エピペン携帯時の注意点
エピペンの本体はプラスチックでできています。コンクリートなどの硬いところに落とすと破損するおそれがあるため、ご注意ください。
なお、飛行機内にエピペンを持ち込む場合は、予約時に機内に持ち込む旨を連絡しておくと良いでしょう。これは、所持品検査時のトラブルを避けるためです。
エピペンの保管方法
エピペンはいつでも使えるように、自宅では手の届きやすい場所に保管してください。ただし、幼いお子さまの手の届かない場所に保管してください。
また、エピペンの有効成分であるアドレナリンは光で分解されやすいため、携帯用ケースに収めた状態で保管・携帯してください。日光の当たる場所や夏場の車のダッシュボード内では保管しないでください。
なお、エピペンは15〜30℃で保存することが望ましいため、冷蔵庫の中など冷所には置かないでください。
日常生活における注意点
他の治療薬との併用に関して
エピペンは、イソプロテレノールなどのカテコールアミン製剤やアドレナリン作動薬(例:プロタノールなど)とは併用しません。これらの薬剤のβ刺激作用によって交感神経興奮作用が増強され、不整脈、場合によっては心停止に至るおそれがあるためです。
ただし、蘇生など緊急に必要な場合はこの限りではありません。
特定の患者さまの使用に関して
妊娠中または授乳中の方への使用
エピペンは、妊婦中の方、妊娠している可能性のある方、または産婦には投与しないことが望ましいとされています。アドレナリンの影響で胎児の酸素欠乏をもたらしたり、分娩第二期を遅延したりするおそれがあるためです。
授乳中の方への使用については、添付文書上に特別な記載はありません。ただし、他のアドレナリン注射液では「授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが、やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせること。」とされているため、使用には慎重な判断が必要です。
お子さまへの使用
低出生体重児、新生児および乳児に対する安全性は確立していません。また、0.01mg/kgを超える用量(例:体重15kg未満の患者に本剤0.15mg製剤、体重30kg未満の患者に0.3mg製剤)を投与すると過量となるおそれがあります。そのため、このような場合は通常のアドレナリン注射液を用いて治療します。
ご高齢の方への使用
ご高齢の方では、アドレナリンの作用に対する感受性が高いことがあります。したがって、少量から投与を開始するなど状態を観察しながら慎重に投与する必要があります。
エピペンの患者負担・薬価について
エピペンの薬剤費は以下のとおりです。
なお、患者さまにご負担いただくのは保険割合に応じた金額になります。例えば、三割負担の患者さまがエピペン注射液0.30mgを1筒処方された場合、ご負担金額は2943.0円です(薬剤費のみの計算です)。
よくあるご質問
- エピペンに代わる市販薬はありますか。
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エピペンに代わる市販薬はありません。インターネット上にはエピペンの個人輸入を代行するサイトもありますが、海外の製品は日本のものとは規格や仕様が異なる可能性がありますし、安全性の面でもおすすめできません。エピペンが必要な場合は、必ず医師の処方を受けるようにしましょう。
- エピペンの使用期限はどこに記載されていますか。期限が「2023.4」の場合、期限は3月末までですか。4月いっぱい使えますか。
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使用期限は、エピペンの本体ラベルおよび外箱に記載されています。使用期限が「2023.4」の場合、期限は2023年4月末までです。期限が切れる前に新しいエピペンを処方してもらいましょう。
なお、エピペン公式サイトでは、必要事項を入力すると期限前に通知が受けられるサービス「重要なお知らせ通知プログラム」を提供しています。便利なサービスですので、ぜひご利用ください。
エピペン公式サイト:https://www.epipen.jp/top.html
- エピペンを誤って打った場合、体に悪影響はありますか。
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アナフィラキシーではないのにエピペンを誤って打ってしまった場合、一時的にほてりや心悸亢進などの症状が起こる可能性があります。通常は15分ほどで元の状態に戻りますが、呼吸数の増加やひどい動悸、不整脈などの症状があらわれる場合はすぐに診療を受けてください。
- エピペンを使用したのですが、薬液が残っています。再使用できますか。
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エピペンは投与量を安定化するために1管中に2mLの薬液が封入されていますが、投与されるのは約0.3mLです。そのため、注射後に約1.7mLの薬液が注射器内に残ります。しかし、エピペンは1回使用したら再使用できない設計になっています。薬液が残っていても1度使用したエピペンは廃棄し、新たにエピペンをご準備ください。
- いざというときに正しく使う自信がないのですが、どうすればよいですか。
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エピペンには、1筒につき1つ練習用トレーナーが付いてきます。緊急時に正しく使えるように、練習用トレーナーを使って継続的に練習しておきましょう。
患者さまご本人が使えない万が一の場合に備え、ご家族などまわりの方が練習しておくことも大切です。お子さまに使う場合は、保護者の方が打つ練習をしておいてください。
記事制作者
小西真絢(巣鴨千石皮ふ科)
「巣鴨千石皮ふ科」院長。日本皮膚科学会認定専門医。2017年、生まれ育った千石にて 「巣鴨千石皮ふ科」 を開院。
2児の母でもあり、「お肌のトラブルは何でも相談できるホームドクター」を目指しています。