ヒルドイドとヘパリン類似物質
世の中には数多くの保湿剤があり、市販品から処方薬まで多種多様です。処方薬の保湿剤の中では、ヒルドイド(製造販売:マルホ株式会社)が代表的なものの1つです。
保湿剤には、皮膚に水分を与える作用や皮膚の水分が逃げないようにする作用があり、皮膚を乾燥やその他のトラブルから守ってくれる効果があります。
ヒルドイドに含まれる有効成分は「ヘパリン類似物質」といい、肝臓で作られる「ヘパリン」という物質に似た構造を持っています。ヘパリン類似物質には、保湿効果のほか、血行を促す作用や線維芽細胞の過剰な増殖をおさえる作用もあるため、凍瘡(しもやけ)やケロイドの治療などにも使用されることがあります。
ヒルドイドの効果
保湿効果
ヘパリン類似物質は水分子を引き寄せて保持する能力があり、さらに皮膚に浸透することで保湿力を発揮します。また、持続的な保湿効果があるため、ヒルドイドをはじめとした多くの保湿剤に使用されています。
血行促進効果
ヘパリン類似物質には、血液をかたまりにくくして血流を良くする作用があります。そのため、血行障害が原因で生じる痛みや炎症、しもやけ、外傷後の血種(皮下出血)などにも効果が期待できます。
抗炎症効果
ヘパリン類似物質は、蛋白分解酵素やヒアルロニダーゼ*の活性をおさえると同時に、部分的に血行やリンパの流れを良くすることで、おだやかな抗炎症作用を示すとされています。
このようなことから、ヘパリン類似物質は、外傷後のはれや腱鞘炎、筋肉痛、関節炎などにも使用されます。
*ヒアルロニダーゼ:炎症時に活性化される成分で、組織の構造を破壊したり、炎症系細胞の透過性を亢進させたりする作用があります。
線維芽細胞増殖抑制効果
ヘパリン類似物質には、コラーゲンの過剰な生成をおさえる作用もあります。そのため、ケロイドや肥厚性瘢痕の治療・予防にも適応があります。
ニキビへの効果
ヘパリン類似物質には、ニキビに対する直接的な効果はありません。毛穴づまりを改善する効果も期待できません。
ただ、ヘパリン類似物質の保湿効果の影響で肌の状態が良くなり、結果としてニキビが改善される可能性はあります。
なお、ヒルドイドなどヘパリン類似物質がニキビ治療薬と一緒に処方されることもありますが、これは、ニキビ治療薬の副作用としてあらわれる刺激感や肌の乾燥をやわらげるためです。
ヒルドイドの剤型紹介
ヒルドイドには4種類の剤型(軟膏・クリーム・ローション・フォーム)があります。剤型が違っても効果に大きな差はありませんが、べたつきや伸ばしやすさが異なります。使い心地の好み・使用する部位・季節などによっても使い分けることができるため、とても便利です。
保湿剤によるスキンケアは年間を通じて継続することが大切であるため、患者さまご自身が塗るのを継続しやすい剤形を選択することが重要です。剤型ごとの特徴を理解するとご自身にあった剤型を選ぶのに参考になると思いますので、それぞれご紹介いたします。
ヒルドイドソフト軟膏
一般的にヒルドイドとして最もよく知られている製剤はヒルドイドソフト軟膏です。「ソフト軟膏」という名前がつけられていますが、実際には軟膏ではなくクリームです。
薬のベースとなる基材には油中水型(油がメインで、内部に水を含むタイプのもの)のクリームが用いられており、少し油っぽくて伸びにくい印象があります。しかし一般的な軟膏よりはべたつきが少なく、水で洗い流すことも難しくありません。
ヒルドイドはどれも刺激感が少ないですが、中でもソフト軟膏は最も刺激感が少ないです。
ヒルドイドクリーム
ヒルドイドソフト軟膏と同様にクリーム状の製剤ですが、基材が異なります。
ヒルドイドクリームの基材には水中油型(水がメインで、内部に油を含むタイプのもの)のクリームが用いられています。
そのためソフト軟膏よりも伸びがよく、べたつきが少ないクリームです。
ヒルドイドローション
ヒルドイドローションは乳液のような使い心地の製剤です。
よく伸びるため広範囲にも塗りやすく、頭部など毛が生えている部位にも使用できます。
使用感が良いといわれることが多いですが、まれに外用部位に刺激を感じる患者さまもいらっしゃいます。
ヒルドイドフォーム
ヒルドイドで唯一、缶に入っている製剤です。
缶から噴出すると、きめの細かい泡になりますが、塗り伸ばすと泡が液状になってとてもよく伸びます。
油分を含まないため、最もさっぱりとした使い心地をしています。
ヒルドイドの規格・値段
剤型ごとに規格が異なるため、表にして示します。
薬そのものの値段は、フォーム剤が18.7円/g、その他のものも18.5円/gでほぼ同じです。
なお、患者さまにご負担いただく金額は、保険割合に応じて変わります。例えば、3割負担の患者さまがヒルドイドソフト軟膏を100g処方された場合、ご負担額は18.5円×100g×0.3=555円になります(薬剤費のみの計算です)。
ヒルドイドのジェネリック:ヘパリン類似物質
ヒルドイドにはジェネリックとして、ヘパリン類似物質のシリーズが製造・販売されています。
(有効成分である「ヘパリン類似物質」がそのまま商品名に使用されています。)
ヒルドイドと同じように数種類の剤型があり、以下のように対応しています。
基本的にはそれぞれの剤型に一対一対応でジェネリックが作られています。使用感に関しても、ローション以外は大きな差はありません。
なおローションに関しては先発品と後発品で使用感が少し異なり、ヒルドイドが乳液状なのに対してヘパリン類似物質ローションは化粧水に近い使い心地です。
また、ヘパリン類似物質にはヒルドイドにないスプレータイプの剤型があります。スプレーでは液体がミスト状に噴射されるため、手が届きにくい部位にも塗布しやすい製剤となっています。
ヒルドイドとヘパリン類似物質の剤型による使いわけ方
剤型は患者さまのお好みで選択していただければ問題ありませんが、目安をご紹介します。ただし大切なのは保湿剤によるスキンケアを年間通じて継続することであり、使い分けにこだわる必要は決してありません。
季節
湿気がある季節には、べとつきにくい製剤(ローション・フォーム・スプレーなど)が使いやすいです。逆に乾燥する季節には油分の多い製剤(ソフト軟膏)の使用をおすすめします。
またクリーム剤は一年中使いやすく、最もバランスが取れている製剤です。季節による使い分けが面倒、あるいは難しいという場合は、クリームを使い続けても良いと思います。
時間帯
忙しい時間帯に薬を塗布される場合には、短時間でも塗りやすいフォームやローションが便利です。時間に余裕がある場合や入浴後の外用には、ソフト軟膏やクリームなど、油分を多く含む製剤でしっかりと保湿するのが良いでしょう。
塗布部位
塗布部位によっても適した剤型は異なります。顔面にはクリームやローションの使用感が良いですし、頭皮や塗布範囲が広い場合は伸びやすいフォームやローションやスプレーが、手・肘・膝・かかとなどしっかり保湿したい部位にはソフト軟膏やクリームが適しています。
ヒルドイドとヘパリン類似物質の副作用
- 皮膚刺激感(頻度不明)
- 皮膚炎、 そう痒、発赤、発疹、潮紅(0.1〜5%未満)
ヒルドイドやそのジェネリック薬を外用することで大きな副作用が出たという報告は、今のところありません。
しかしまれではありますが、上記のような副作用が出てしまう方もいらっしゃいます。ヒルドイドを開始した後にこれらの症状がみられた場合や、肌に合わないと感じた場合には、すぐに使用を中止しましょう。そして症状に応じて、医療機関を受診してください。
ヒルドイドとヘパリン類似物質の禁忌
ヘパリンには血液が固まりにくくする作用があります。ヘパリン類似物質も同様の作用を持つため、以下に当てはまる患者さまには処方いたしかねますのでご了承ください。
【ヒルドイドとヘパリン類似物質の禁忌】
(1)血友病、血小板減少症、紫斑病等をお持ちの患者さま
(2)わずかな出血でも重大な結果を来すことが予想される患者さま
小児や妊産婦の患者さまへの使用
ヒルドイドとヘパリン類似物質は共に、妊娠中の患者さまに対して投与する場合の安全性は確立していません。
これはあくまで『使用してはいけない』という意味ではなく『妊婦さんに使っても安全だという証明がされていない』という意味です。
実際の現場では処方されていることも多々ありますので、今後データが集まってくると考えられます。小児・授乳婦の患者さまへの使用には制限ございませんので安心してお使いください。
よくあるご質問
- ヒルドイドは市販されていますか?同じ成分の市販薬はありますか?
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市販薬のなかにも、ヘパリン類似物質を主成分とする製品はあります。成分濃度がヒルドイドと同じものも多数販売されています。剤型も、クリーム・ローション(化粧水タイプ・乳液タイプ)・スプレーなど、豊富にそろっています。
ただし、添加物などはヒルドイドと異なる場合があります。また、ヘパリン類似物質だけではなく、かゆみをおさえる成分や抗炎症成分、ワセリンなどが配合されているものも少なくありません。
市販薬を使っても症状が改善しない場合や刺激を感じる場合などは、使用をやめて受診してください。
- ヒルドイドの使用をやめたほうがいいのは、どのような場合ですか?
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ヒルドイドを塗布して、ひどいかゆみなど過敏症が疑われる症状があらわれた場合は使用を中止してください。また、ヘパリン類似物質には血液をかたまりにくくする働きがあるため、出血している部分には使えません。
なお、ヒルドイドには血行を良くする作用もあるため、塗布した部位に赤みが出ることもあります。そのため、肌の赤みが気になる場合は使用の中止を検討する場合もあります。赤みが出にくい保湿剤もありますので、気になる症状がある場合はお気軽にご相談ください。
- ヒルドイドを長期使用しても大丈夫ですか?注意すべきことはありますか?
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ヒルドイドは、症状に応じて長期間使用されることもあります。また、長期連用で副作用発生率が高くなるなどの報告もありません。
もっとも、皮膚の状態は日々変化します。ヒルドイドの使用でいつもと違う刺激やかゆみなどを感じた場合は、早めに受診してください。
- ヒルドイドに美容効果があると聞いたのですが、本当ですか?
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ヒルドイドに美容効果は認められていません。
たしかに、ヒルドイドには保湿効果・血行促進効果・抗炎症効果などがあります。そのため、ヒルドイドによって肌の健康状態が改善され、結果として肌トラブルが減少する可能性はありますが、それは二次的な効果にすぎません。
そもそも、ヒルドイドは「医療用医薬品」であり、医師が患者さまの皮膚の状態を診察したうえで処方するものです。自己判断で安易に使用して良いものではありませんので、お知りおきください。
- ヒルドイドで傷跡は消えますか?
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手術痕やケガなどが原因でできたミミズバレ状の傷跡、ヤケド跡の改善にも効果が期待できます。
ただし、できてから何年も経っている傷跡では、効果があらわれるまでに時間がかかったり、十分に効果があらわれなかったりする可能性が高いです。
- ヒルドイドは、シミに効果がありますか?
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ヒルドイドには、シミ(色素沈着)を薄くする効果はありません。ヒルドイドの使用で肌のターンオーバーサイクルが整い、結果としてシミが多少改善することはあるかもしれませんが、直接的な効果はありません。
シミに対しては、より効果が期待できるほかの薬剤がありますので、お気軽にご相談ください。
- ヒルドイドを顔に使うと「将来たるむ。後悔する。」という噂を聞きました。そのようなことはあるのですか?
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ヒルドイドの使用で肌がたるむことはありません。「ヒルドイドで肌がたるむ」といわれるのは、ヒルドイドの線維芽細胞増殖抑制効果に由来すると考えられます。
線維芽細胞とは、肌のハリや潤いに欠かせない成分(コラーゲン・ヒアルロン酸・エラスチンなど)を作り出している細胞です。そのため、線維芽細胞増殖抑制効果を持つヒルドイドを使用すると「肌がたるむ」といわれているようですが、ヒルドイドが抑制するのは「過剰な」コラーゲンの生成と蓄積のみです。肌の健康維持に必要な成分まで抑制してしまうことはありませんので、ご安心ください。
記事制作者
小西真絢(巣鴨千石皮ふ科)
「巣鴨千石皮ふ科」院長。日本皮膚科学会認定専門医。2017年、生まれ育った千石にて 「巣鴨千石皮ふ科」 を開院。
2児の母でもあり、「お肌のトラブルは何でも相談できるホームドクター」を目指しています。