尋常性乾癬治療薬「ヒュミラ(アダリムマブ)」生物学的製剤

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ヒュミラとは?

ヒュミラの写真

ヒュミラ(一般名:アダリムマブ)は、「TNF阻害薬」に分類される薬剤です。
「TNF」は健康な人の体内にも存在するたんぱく質の一種で、免疫や炎症、痛みの発現に関与する因子です。TNFは体を守るうえで欠かせない因子ですが、過剰になると炎症をまねくなどの悪影響が生じてきます。

TNFにはいくつか種類がありますが、ヒュミラは炎症を引き起こすTNFαの働きを抑え、皮疹や関節症状などを改善します。

名称の由来はHUM-(Human:人),-I-(Immunology:免疫),-RA(Rheumatoid Arthritis:関節リウマチ)から命名されました。

ヒュミラの特徴と臨床成績

ヒュミラは、免疫機能や炎症・痛みの発現と関係が深いTNFαに選択的に結合し、その働きを抑えることから、リウマチ系疾患やクローン病などの消化器系疾患、眼科系の疾患にも適応があります。皮膚科では、尋常性乾癬・関節症性乾癬・膿疱性乾癬や化膿性汗腺炎、壊疽性膿皮症の治療に使用されます。

乾癬に対する臨床成績

中等症または重症の尋常性乾癬の方を対象とした国内の臨床試験では、16週間の治療で改善が見られた人の割合はプラセボ群で4.3%であったのに対して、ヒュミラ投与群では62.8%(初回80mg+2回目以降40mg投与群)、81.0%(80mg投与群)でした。
また、既存治療で十分な効果が得られなかった膿疱性乾癬(汎発型)の方を対象とした臨床試験では、16週の投与で症状が改善あるいは寛解した人は70.0%でした。
中等症または重症の活動性乾癬性関節炎の方(腫脹関節数が3関節以上、疼痛関節数が3関節以上かつ非ステロイド系炎症薬療法で効果が不十分な場合)を対象とした海外の臨床試験では、12週の投与で57.6%の人に症状改善が見られました。また、投与から24週間後の関節破壊の進展がプラセボ群に比べて有意に少なかったことも示されました。

化膿性汗腺炎に対する臨床成績

国内で実施された臨床試験では、52週間(約1年間)の治療で66%の方が膿瘍および炎症性結節が減少または増加が抑えられ、その後さらに約1年間治療を続けた場合でも持続的な効果が得られました。

壊疽性膿皮症に対する臨床成績

局所治療では十分な効果が得られない、あるいは局所治療が適さないと判断された活動性の潰瘍を有する潰瘍型壊疽性膿皮症の方を対象とした臨床試験では、26週間の治療で標的とした壊疽性膿皮症潰瘍の完全な治癒あるいは閉鎖を達成した人の割合は54.5%でした。

ヒュミラの効能効果・用法用量

効能効果

ヒュミラは、関節リウマチ、若年性特発性関節炎(小児リウマチ)、強直性脊椎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管型ベーチェット病、尋常性乾癬・関節症性乾癬・膿疱性乾癬、化膿性汗腺炎、壊疽性膿皮症、非感染性ぶどう膜炎に適応があります。
ただし、ヒュミラは規格ごとに適応疾患が異なります。
皮膚科領域の疾患である尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬、化膿性汗腺炎、壊疽性膿皮症に適応があるのは、40mgシリンジおよび40mgペン、80mgシリンジおよび80mgペンです。
なお、尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬については、「既存治療で効果不十分な場合」とされています。

用法用量

ここでは、皮膚科領域の疾患に限定して用法用量を紹介します。
尋常性乾癬、乾癬性関節炎、膿疱性乾癬
通常、成人には初回80mg、以後2週に1回40mgを皮下注射します。
ただし、効果不十分な場合には1回80mgまで増量可能です。

化膿性汗腺炎

通常、成人には初回160mg、初回投与2週間後に80mgを皮下注射します。
初回投与4週間後以降は、40mgを毎週1回または80mgを2週に1回皮下注射します。

壊疽性膿皮症

通常、成人には初回160mg、初回投与2週間後に80mgを皮下注射します。
初回投与4週間後以降は、40mgを毎週1回皮下注射します。
投与前の検査や自己注射の指導について
当院では、おもに尋常性乾癬の治療にヒュミラを導入しています。

投与前の検査について

ヒュミラは、投与前に血液検査と胸部X線検査(レントゲン)が必要です。
血液検査は当院にて行います。
胸部X線検査については、半年以内の健康診断の結果がある方はお持ちください。お持ちでない方は当院ビル3階の内科医院で撮影が可能です。

当院の自己注射の指導方法について

患者さまが治療を選択するうえで心配事となる自己注射について、当院の取り組みをご紹介いたします。どのような考えで自己注射の指導にのぞんでいるかをご覧いただき、少しでも患者さまの不安の解消につながれば幸いです。

» 自己注射の詳細はこちら

ヒュミラの使用上の注意点

ヒュミラを打ってはいけない例

以下に該当する場合は、ヒュミラの投与が禁忌とされています。

  • 重篤な感染症(敗血症など)がある場合(症状を悪化させるおそれがあります。)
  • 活動性結核の場合(症状を悪化させるおそれがあります。)
  • ヒュミラの成分に対して過敏症の既往歴がある場合(重篤なアレルギー症状があらわれるおそれがあります。)
  • 脱髄疾患(多発性硬化症など)およびその既往歴がある場合(症状の再燃および悪化のおそれがあります。)
  • うっ血性心不全がある場合(ヒュミラ投与下でうっ血性心不全が悪化した症例が報告されています。)

使用に注意が必要な方

以下の場合は、ヒュミラの投与が禁忌ではありませんが注意が必要です。

  • 重篤ではないものの感染症に罹患している場合、あるいは罹患している疑いがある場合(症状が悪化するおそれがあります。)
  • 結核の感染歴がある場合または結核感染が疑われる場合(結核を活動化させ、症状が顕在化するおそれがあります。)
  • B型肝炎ウイルスキャリアの場合または感染既往歴がある場合(B型肝炎ウイルスの再活性化が認められ、致命的な例も報告されています。)
  • 脱髄疾患(多発性硬化症など)が疑われる徴候がある場合および家族歴がある場合(脱髄疾患発現のおそれがあります。)
  • 重篤な血液疾患(汎血球減少、再生不良性貧血など)がある場合またはその既往歴がある場合(血液疾患が悪化するおそれがあります。)
  • 間質性肺炎の既往歴がある場合(間質性肺炎が増悪または再発することがあります。)

ヒュミラの副作用

ヒュミラのおもな副作用として、頭痛、上気道感染(鼻咽頭炎など)、咳、発疹、かゆみ、湿疹、発熱、注射部位の赤みや腫れなどが報告されています。
また、重大な副作用として、重篤な感染症、重篤なアレルギー反応、重篤な血液障害、間質性肺炎、劇症肝炎などが報告されています。
重大な副作用が生じることは稀ですが、ヒュミラの投与にともない下記のような症状があらわれた場合はすみやかに受診してください。

重大な副作用 初期症状
敗血症、肺炎などの重篤な感染症 発熱、寒気、脈が速い、
体のだるさ、咳、痰、
息切れ、息苦しさ
結核 寝汗をかく、体重の減少、
体のだるさ、微熱、長引く咳
ループス様症候群 発熱、関節痛、むくみ
脱髄疾患(多発性硬化症、
視神経炎、横断性脊髄炎、
ギラン・バレー症候群など)
麻痺、顔や手足の異常な感覚、
物が見づらい、意識の低下
重篤なアレルギー反応 全身のかゆみ、蕁麻疹、
喉のかゆみ、ふらつき、
動悸、息苦しさ
重篤な血液障害
(汎血球減少症、血小板減少症、
白血球減少症、顆粒球減少症)
突然の高熱、寒気、喉の痛み、
鼻血、歯茎からの出血、皮下出血、
血が止まりにくい、出血しやすい、
めまい、耳鳴り、頭が重い、
動悸、息切れ
間質性肺炎 空咳、発熱、息切れ、呼吸困難
劇症肝炎、肝機能障害、
黄疸、肝不全
意識の低下、皮膚や白目の黄変、
体のかゆみ、尿の色が濃い、
腹部の張り、急激な体重増加、吐血、
鮮紅色~暗赤色または黒色の便が出る、
疲れやすい、体のだるさ、脱力感、
吐き気、食欲不振

日常生活における注意点

他の治療薬との併用に関して

添付文書上、ヒュミラとの併用が禁忌とされている薬剤はありません。
ただし、ヒュミラは免疫を司るTNFαの作用を抑えるため,投与すると感染症にかかりやすくなる可能性があります。そのため、「生ワクチンの接種は行わないこと」とされています。もっとも、今のところ生ワクチンの接種により感染症を発現したとの報告はありません。

特定の患者さまの使用に関して

妊娠中の方への使用

ヒュミラは、動物の胚などを対象とした試験において、明確な影響は認められていません。しかし、妊娠中の方を対象とした臨床試験を実施していないため、安全性が確立していません。
したがって、妊娠中の方や妊娠している可能性がある方への投与は、使用上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ検討します。
なお、ヒュミラは胎盤透過性が報告されています。そのため、妊娠中にヒュミラの投与を受けた方からの出生児は感染のリスクが高まるおそれがあるため、生ワクチンの投与に十分な注意が必要とされています。

授乳中の方への使用

ヒュミラの有効成分であるアダリムマブは、ヒトの母乳中へ移行することが報告されています。そのため、授乳中の方へ投与する場合は、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮したうえで、授乳の継続または中止を検討します。

お子さまへの使用

ヒュミラを投与すると、感染症の発現リスクが高まるおそれがあります。
したがって、ヒュミラの投与前に必要なワクチンを接種しておくことが望ましいとされています。
なお、皮膚科領域の疾患(尋常性乾癬、乾癬性関節炎、膿疱性乾癬、化膿性汗腺炎、壊疽製膿皮症)については小児に適応がありません。
ご家庭では、お子さまがヒュミラを勝手に持ち出すことがないよう十分にご注意ください。

ご高齢の方への使用

国内外の臨床試験において、高齢者(65歳以上)は非高齢者(40歳未満)に比べて重篤な有害事象の発現率が高い傾向が認められています。また、一般に高齢者では生理機能(免疫機能など)が低下しています。そのため、高齢の方にヒュミラを使用する場合は、状態を十分に観察しながら慎重に治療を進めていきます。

ヒュミラ保管時の注意

ヒュミラは、使用する直前(10~15分前)まで箱に入れたまま2~8度で保管する必要があります。適切な温度管理ができなかった場合、あるいは一度でも凍結してしまった場合は使用できなくなりますので、ご注意ください。
なお、成分の劣化・変性を防ぐために、冷凍庫やチルド室、野菜室、冷気の吹き出し口付近では保管しないでください。

ヒュミラの患者さま負担・薬価について

ヒュミラの薬剤費は以下のとおりです。

ヒュミラ皮下注20mgシリンジ0.2mL 25,272.0円/筒
ヒュミラ皮下注40mgシリンジ0.4mL 51,553.0円/筒
ヒュミラ皮下注40mgペン0.4mL 48,988.0円/キット
ヒュミラ皮下注80mgシリンジ0.8mL 101,554.0円/筒
ヒュミラ皮下注80mgペン0.8mL 95,070.0円/キット

ただし、患者さまにご負担いただくのは保険割合に応じた金額になります。例えば、3割負担の患者さまがヒュミラ皮下注40mgペン0.4mLを1キット処方された場合、ご負担金額は14,696.4円です(薬剤費のみの計算です)。
なお、1ヵ月の医療費の支払い額(自己負担額)が高額になる場合は、高額療養費制度などの負担軽減措置が受けられることもあります。詳しくは、ご加入の保険者(市町村や企業の健保組合)にご確認ください。

よくあるご質問

ヒュミラの副作用に脱毛はありますか?皮膚炎やニキビの副作用はありますか?

脱毛は、ヒュミラの副作用として報告があります。皮膚炎やニキビ(ざ瘡)の報告もあります。
ただし、発現頻度はそれほど高くなく、脱毛については1%未満、皮膚炎やニキビは1~5%未満とされています。

ヒュミラの効果が出るまでにどれくらいかかりますか?

効果が出るまでの期間には個人差があるため、一概には言えません。実際、効果を実感するまでに月単位の時間が必要なことも少なくありません。
なお、乾癬の場合は皮疹に対する効果判定を治療開始から16週目くらいに実施することが多いです。痛みの程度や生活の質(QOL)の改善度も重要な指標となりますので、気になる変化があるようでしたら診察時にご相談ください。

ヒュミラはいつになったらやめることができますか?

ヒュミラをはじめとした生物学的製剤の中止については、世界的にも一定の見解が得られていません。ただ、40~52週程度寛解に近い状態を維持できれば、中止を考慮しうる1つの目安になると考えられています。

 

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記事制作者

小西真絢(巣鴨千石皮ふ科)

「巣鴨千石皮ふ科」院長。日本皮膚科学会認定専門医。2017年、生まれ育った千石にて 「巣鴨千石皮ふ科」 を開院。
2児の母でもあり、「お肌のトラブルは何でも相談できるホームドクター」を目指しています。