トルツ(イキセキズマブ)とは?
トルツ(一般名:イキセキズマブ)は生物学的製剤のひとつです。過剰に増えたIL(インターロイキン)-17Aという物質の働きを抑えるお薬として2016年に発売されました。乾癬による皮膚症状と関節症状の両方に効果がある薬剤です。
» 乾癬の詳細はこちら
トルツ皮下注80mgは皮下注射により投与し、注射器はオートインジェクターとシリンジの2種類があります。
患者さまご自身による自己注射が認められており、注射器(デバイス)は投与しやすいように工夫されています。オートインジェクターのデバイスはグッドデザイン賞を受賞しています。
乾癬の生物学的製剤は日本皮膚科学会の検討委員会による審査を経て理事会で承認されて使用を許可されます。当院は日本皮膚科学会が作成する「乾癬生物学的製剤使用承認施設」に掲載されています。
トルツの特徴
IL-17Aは正常時には体内で免疫にかかわる働きをしますが、何らかの原因でIL-17Aが過剰に増えると乾癬となり皮膚症状や関節症状の原因として深く関与していることがわかっています。
乾癬の初期には赤みとかゆみの症状がほとんどの患者さんに見られます。湿疹とよく似ているので見分けがつきにくいですが、症状が進行すると境界がはっきりして盛り上がりかさかさしてきます。
トルツは、乾癬に深く関与する「IL-17A」を選択的に標的にした薬剤で、過剰に増えた「IL-17A」としっかり結合して働きを弱め、炎症や悪化につながる働きを抑えることができます。これにより乾癬による皮膚症状や関節症状の改善に効果が期待できます。
トルツの対象患者さま
トルツを使用する場合の確認事項
- 今までの治療法(塗り薬や紫外線を用いた治療や飲み薬)で十分な効果が得られない方
- 皮膚の症状が全身の10%(手のひら10枚分の面積)以上ある方
- 難治性の皮膚症状または関節症状がある方
トルツの適応症
以下の4つの乾癬の疾患と関節炎が適応になっています。
- 尋常性乾癬
- 関節症性乾癬
- 乾癬性紅皮症
- 膿疱性乾癬
- 強直性脊椎炎
- X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎
トルツの投与方法と投与スケジュール
トルツは医療機関で注射する方法と、患者さまご自身で薬液を注射する自己注射を選択可能です。自己注射がご不安な方へ、当院の対応についてまとめたコラムを紹介いたします。
» 自己注射の詳細はこちら
オートインジェクターの使い方
太もも(大腿部)、お腹(腹部)または二の腕(上腕部)の外側のうち、乾癬の症状や傷のない場所を選び投与部位を決めます。ロックリングがロックの位置にあることを確認してキャップを回して外し、底面を皮膚に密着して固定します。ロックを解除し注入ボタンを押し切るとカチッという大きな音がし、その後2回目のカチッという大きな音がしたら注射完了です。
オートインジェクターの特徴
- 幅広い底面が肌に密着して安定している
- 針が見えにくいデザインである
- 自動注入の開始と終了は音で確認できる
トルツの投与スケジュール
初回:初回のみ2本続けて注射します。
2回目~7回目まで:2回目以降(2週~12週まで)は、2週間隔で1本注射します。
8回目以降:12週以降は、4週間隔で1本注射していきます。
※12週時点で効果不十分な場合、12週以降も2週間隔で1本注射が可能です。
※体重や年齢に関わらず、注射本数と注射スケジュールは変わりません。
※写真はオートインジェクターです。シリンジの場合も投与スケジュールは同じです。
※強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎での投与スケジュールは初回から1回につき1本を、4週ごとに注射します。
トルツに関するご質問がある場合は、お問い合わせ窓口(日本イーライリリー株式会社)もございます。0120-526-382(いつでもそばに)にてフリーダイヤルでご利用いただけます。
使用上の注意
注射した当日はトルツなどの生物学的製剤を使用すると、体の免疫機能が弱まり、病原菌やウイルスに対する抵抗力が弱まる可能性があります。日常生活ではかぜやインフルエンザなどの感染症を防ぐため、手洗いやうがいを習慣づけ、体調管理を心がけましょう。
トルツ使用中は生ワクチンの予防接種は感染症を引き起こすおそれがあるため受けることはできません。その他のワクチン接種を希望される場合はご相談ください。
トルツの患者さま負担・薬価について
トルツ皮下注80mgの薬価はオートインジェクター/シリンジとも1本148,952円です。3割負担の患者さまで1本あたり44,685.6円の薬剤費となります(薬剤費のみの計算)。投与開始日によって月内に投与できる本数が異なるため、患者さま負担も変動します。
医療費が高額になる場合は自己負担が軽減されたり、税金の一部が減額されるなど、医療費の助成を受けられる場合があります。
よくあるご質問
- トルツは、なぜ飲み薬ではなく注射薬なのですか?
-
トルツの成分はタンパク質なので、飲み薬にすると胃腸で消化され、作用部位に届く前に効果がなくなってしまいます。薬の有効成分の効果を安定に保ってきちんと作用するためには、注射薬としての使用が最適なのです。
- 食事のタイミングや内容は、注射や治療に影響しますか?
-
トルツによる治療に食事の影響はありません。食事の前でも後でも注射をすることができますので、トルツ使用のために食事の時間を決める必要はありません。 またトルツ使用のために、特定の食事制限などは必要ありません。
- トルツによる治療を受けている間に、検査を受ける必要がありますか?
-
トルツを含む生物学的製剤による治療中には、安全に生物学的製剤による治療ができているかどうかを確認するために、定期的な検査をすることが推奨されています。また、定期的な検査に加えて、副作用の有無を確認するために、臨床検査を受けるよう判断する場合があります。臨床検査については、担当医の指示に従ってください。
- トルツによる治療中に、熱が出た場合や感染症にかかった場合、どうしたらいいですか?
-
トルツの使用開始後に、感染症にかかったと思われる場合や、感染症の徴候や症状があらわれた場合には、担当医にお知らせください。トルツの使用により、あなたの体が感染症と戦う力が弱まって病気にかかりやすくなっている可能性があるので、ふだんからの注意が必要です。どのように症状か、いつからなのかなど、できるだけ詳しく伝え、判断にしたがってください。
- 旅行に行っても大丈夫ですか?
-
大丈夫です。ただトルツの使用中は衛生面での管理などにご注意ください。また、旅行の日程が注射予定日と重なってしまいそうな場合は、早めにご相談してください。
記事制作者
小西真絢(巣鴨千石皮ふ科)
「巣鴨千石皮ふ科」院長。日本皮膚科学会認定専門医。2017年、生まれ育った千石にて 「巣鴨千石皮ふ科」 を開院。
2児の母でもあり、「お肌のトラブルは何でも相談できるホームドクター」を目指しています。