ゲンタシン軟膏とは?
ゲンタシン軟膏(一般名:ゲンタマイシン)は、表在性皮膚感染症の治療において古くから使われている、アミノグリコシド系の抗生物質です。抗生物質とは細菌による感染症を治療する薬のことで、その作用機序によって細菌の発育や増殖を阻止する静菌性抗生物質と、細菌を死滅させる殺菌性抗生物質に大別されます。ゲンタマイシンは殺菌性に含まれます。様々な種類の細菌に対して有効ですが、消化管からの吸収はほとんどなく組織や細胞への移行性も低いです。そのため飲み薬ではなく、注射薬や外用薬として使われています。
ゲンタシン軟膏の特徴
ゲンタシン軟膏は消化管からの吸収率が悪いだけでなく、実は皮膚からもほとんど吸収されません。外用した後は皮膚表面にとどまるため、皮膚表在性の細菌に対して殺菌効果を発揮します。薬の成分が体内に入ることで生じる副作用を考慮しなくてよいため、高濃度で使用することができます。
ゲンタシン軟膏の使い方
薬を塗る前に患部を石けんと水で洗い、清潔なタオルなどで水気を拭き取り乾燥させます。そして1日に1~数回、患部にゲンタシン軟膏を塗ります。軟膏をガーゼにのばし、患部に貼付するやり方も簡便でおすすめです。
ゲンタシンクリーム
ゲンタシンクリームは、ゲンタシン軟膏と同じ成分(ゲンタマイシン)を同量含むクリームです。軟膏に比べてべたつきが少なく、さらっとした塗り心地なので、被毛部などにも使いやすいのが特徴です。
ただ、皮膚への刺激はクリームのほうが少し強めです。また、やけどなどで角膜が剥離している部分にクリームを塗布すると、軟膏を塗布した場合に比べて有効成分が体内に吸収されやすいことがわかっています。
そのため、症状や部位に応じて適切な剤型を選ぶ必要があります。
ゲンタシン軟膏を使用する上の注意点
耐性菌ができてしまうので、やたらに使用しないこと
ゲンタシン軟膏に限った話ではありませんが、細菌感染症に対して抗生物質を使用する場合には耐性菌の発現に気をつけなければいけません。耐性菌とは、強い抵抗力を持ち、薬が効きにくい細菌のことです。抗生物質を必要以上に長期間投与した時や、治療が中途半端になった時に、耐性菌ができやすくなるといわれています。薬剤への耐性は別の細菌に伝達されて連鎖していき、さらに人と人との接触を介して世間に広がっていってしまいます。この連鎖は、最初の段階で食い止めなければなりません。そのため全ての抗生物質は適切に使用する必要があるのです。
ゲンタマイシンは元々、細菌性皮膚感染症の主な原因菌であるブドウ球菌や化膿レンサ球菌を筆頭に、大腸菌・クレブシエラ属・エンテロバクター属・プロテウス属・モルガネラモルガニー・プロビデンシア属・緑膿菌など様々な細菌に対する殺菌効果をもつ薬として発見されました。しかし現在では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、緑膿菌等において、ゲンタマイシン耐性菌の発生が多数報告されています。むやみやたらにゲンタシンを使用すると、より多くの耐性菌が蔓延してしまいます。自己判断でゲンタシンを外用するのは控えましょう。
アレルギー性接触皮膚炎を起こすことがある
ゲンタシンを含むアミノグリコシド系抗菌薬は、比較的かぶれやすい薬であることがわかっています。アレルギー性接触皮膚炎の特徴として、初めて使用した時には反応が出ず、2回目以降の使用後に、外用部位にかゆみや赤みなどの症状が出てきます。そのため初回外用後に大丈夫でも油断せず、外用を続けている間は必ず患部の観察を十分に行いましょう。小さなお子さまや高齢の方だとご自身で症状を訴えられない場合もありますので、周囲の方が気をつけてあげてください。ゲンタシン軟膏を外用している期間にかゆみ・赤み・腫れ・ポツポツ・小さな水ぶくれなどの症状があらわれた場合には、すぐに使用を中止して皮膚科の医師までご相談ください。
日常生活における注意点
薬の保存方法は常温保存です。高温多湿の場所や冷蔵庫・冷凍庫などは避けるようにしてください。また、小さなお子さまの手の届かない所に保管してください。
ゲンタシン軟膏の患者さま負担・薬価について
ゲンタシン軟膏は1本10g入りのチューブで、1本あたりの薬価は110円です。1本処方された場合、三割負担の患者さまで33円の薬剤費となります(薬剤費のみの計算です)。なお2022年1月時点でジェネリック薬は発売されていません。
よくあるご質問
- ちょっとしたケガ・擦り傷に対して使用しても良いですか?
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歴史的な背景を見るとゲンタシン軟膏は小さな傷などに対して、多くの皮膚科・小児科などで処方されてきました。しかし前述した通り、その影響でゲンタシン軟膏に対して耐性を持つ菌が増加してしまっているのが現状です。ゲンタシン軟膏の不適切な使用は耐性菌の増加を招きますので、塗布する際には医師の判断が必要です。自己判断せずに、医療機関を受診してください。どうしても受診が難しくセルフケアする場合は、水道水で患部を洗浄し乾燥させないようにしてください。
ハイドロコロイドによる湿潤療法がおすすめです。または白色ワセリンを塗布して様子をみるようにしてください。白色ワセリンは抗生剤ではないので耐性菌が生まれる可能性はありませんし、小さな傷であればそれだけで治癒する可能性も高いです。
- ゲンタシンとゲンタマイシンの違いはなんですか?
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ゲンタシン軟膏の成分名がゲンタマイシン硫酸塩ですので、同じものと考えてください。
- ゲンタシン軟膏と同じ成分の市販薬はありますか?
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ゲンタシン軟膏と同じ成分の市販薬は、販売されていません。
ただし、ゲンタシン軟膏の成分であるゲンタマイシンと同系統の成分「フラジオマイシン」を含む市販薬は販売されています。
もっとも、医療用医薬品であるゲンタシン軟膏と市販薬では適応が異なります。そのため、ゲンタシン軟膏の代わりに市販薬を使うことはできません。
- ゲンタシン軟膏は陰部に使用して大丈夫ですか?
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ゲンタシン軟膏は、陰部の細菌感染に処方されることもあります。
ただし、耐性菌の発現を防ぐため、使用は最小限の期間にとどめなければいけません。また、真菌感染症やウイルス感染症には効果がないため、使用してはいけません。
なお、真菌感染症やウイルス感染症は細菌感染症との見分けがつかないこともあります。したがって、残薬があっても自己判断で使用するのはやめてください。
- ゲンタシン軟膏はニキビに効果はありますか?
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ゲンタシン軟膏は、ニキビ(尋常性ざ瘡)に適応がありません。しかし、細菌感染を起こしているニキビ(赤ニキビや嚢胞になったもの)や、毛包炎(毛嚢炎)の治療に使われることがあります。
一方、いわゆる白ニキビや黒ニキビには、十分な効果が期待できません。
- ゲンタシン軟膏はやけどに効果はありますか?
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ゲンタシン軟膏にやけどを治す効果はありません。しかし、やけどにともなう細菌感染に処方されることはあります。
やけどした部位が細菌に感染すると、合併症をまねき重症化することもあります。また、細菌感染によって治癒が遅くなることもあります。とはいえ、自己判断でゲンタシン軟膏を使うのは好ましくありません。
やけどをした場合は、傷を残さないためにも早目に受診して適切な治療を受けましょう。
- ゲンタシン軟膏によって水虫は治りますか?塗って大丈夫ですか?
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水虫のある部位に細菌感染が起きている場合は、ゲンタシン軟膏が処方されることもあります。しかし、ゲンタシン軟膏のみで水虫を治すことはできません。
なぜなら、ゲンタシン軟膏の有効成分であるゲンタマイシンは、水虫の原因である真菌(カビの仲間)には効果が期待できないからです。
なお、ゲンタシン軟膏を漫然と使い続けると、耐性菌が発現するおそれがあります。また、ゲンタシン軟膏の副作用で赤みやかゆみなどが生じることもあります。したがって、自己判断でゲンタシン軟膏を水虫に塗るのは避けてください。