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酒さとは?
酒さとは、顔などに赤み・火照りが長時間かつ繰り返し出現する慢性炎症性疾患のことです。とくにほほや額、鼻の周りやあご、首を中心に出現し、しばしばかゆみを伴うことがあるほか、悪化したまま放置していると、鼻周辺が腫れあがって鼻瘤(びりゅう:団子鼻)を形成することがあります。
30代以降の人が発症しやすい傾向にあります。国際的な有病率は、一般成人で5.46%、皮膚科外来患者で2.39%と推計されています。男性よりも女性に多い傾向があり、有病率は女性で5.41%、男性3.90%でした。
酒さのタイプによる分類
酒さは大きく4つのタイプに分けられます。また、複数のタイプの症状がみられることもあります。
- 紅斑毛細血管拡張型:顔が赤くなり、毛細血管の広がりがみられます。ほてりやヒリヒリ感があります。
- 丘疹膿疱型:赤い盛り上がりや膿のたまったニキビのようなぶつぶつがみられます。ほてりやヒリヒリ感があります。
- 鼻瘤:鼻の皮膚が熱くなり、こぶのようなものができます。
- 眼型:目の充血、異物感やかゆみ、乾燥、まぶしさを感じます。
酒さの期間による分類
酒さは4つの期間によって臨床像が区別されています。
- 酒さ前駆期
- 血管期
- 炎症期
- 進行期
酒さ前駆期
ほほと鼻の皮膚が紅潮します。紫外線や寒暖差、飲酒などの外的刺激や精神的ストレスなどを受けて赤みは数時間~数日間持続して見られます。
血管期
皮膚が赤く腫れあがったようになり、毛細血管拡張により皮膚の下の細い血管がよく見えます。
炎症期
ニキビのような小さなポツポツができ、膿疱を形成することが数週間ほど続きます。
進行期
鼻が赤く腫れ、周辺の皮膚が分厚くなります。症状が長引いているのをそのまま放置していると鼻瘤(団子鼻)を形成することがあります。
このほか、目の周りが腫れたり結膜炎、角膜炎を生じる眼型の酒さもあります。
酒さは、「ただの顔の赤み」と考えられやすいですが、他の症状と合併していたり、複合的な要因によって発症していたりすることがほとんどなので、全身性疾患としての背景を見据えたうえ診断・治療を考えることが大切です。
酒さの原因
酒さの原因は明確には特定されていません。慢性的な化粧品や金属アレルギーでのかぶれが原因になる、寒暖差などの刺激をうけて末梢血管が拡張しやすくなっている、皮膚表面の毛包虫感染やピロリ菌感染が要因となる、といったさまざまなタイプの原因説があります。
また、悪化の原因としては紫外線、温度差、香辛料や熱い刺激物の摂取、飲酒、化粧品、過剰な皮脂、緊張や不安などの精神的ストレス、ニキビダニなどが挙げられています。ご自身の酒さが悪化する原因を特定し、その因子を避けることが大切です。
海外の調査では、酒さの患者には、炎症性腸疾患、循環器系疾患、高脂血症、パーキンソン病、腫瘍やリウマチといった自己免疫疾患を持っていることが多いという報告もあります。酒さに伴う全身性疾患などを確認することが推奨されています。
酒さの診断
酒さは医師による視診と問診で診断がつくことが大半です。特別な検査を要するものではありませんが、顔に赤みが出る・火照るという症状は他の疾患でも見られるため、鑑別診断としてダーモスコピーを用いることがあります。
よくある疾患として、アレルギー性接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、花粉症皮膚炎、膠原病などとの鑑別が必要になります。
なお、こうした疾患は酒さと合併して発症していることが珍しくありません。例えば、アレルギー性皮膚炎の治療だけに専念してステロイド外用薬を処方したことで、内攻していた酒さを顕在化してステロイド酒さと診断されてしまうケースなどが見られます(ステロイド外用薬は一時的な効果を現すものの、長期的には酒さを悪化させることが多いです)。
重要なのは、酒さと合併している疾患の治療を同時並行的に行うことです。
酒さセルフチェック
1~3番目の項目に加えて、4番目・5番目に当てはまる場合は酒さの可能性があります。
酒さはセルフケアだけでは改善が難しい病気です。しかし、適切な治療を行えば症状の緩和を目指すことができます。医療機関専売のクリームなどで症状が改善することもありますので、酒さでお悩みの方はご相談ください。
酒さの治療
酒さの治療は、治癒というよりも寛解や緩和を目指す、症状のコントロールを目的としています。自宅でスキンケアなどをするだけでは改善がむずかしく、医療機関での適切な治療(外用薬、内服薬、レーザー治療など)が必要となります。
ロゼックスゲル
これまで保険適用外でしたが、2022年5月に主成分であるロゼックス(メトロニダゾール)という抗菌薬の塗り薬が保険適用となりました。副作用が少ないことで知られており、赤ら顔の治療に有効です。
薬価(薬剤費のみ) | 1534.5円/本 (三割負担)460.35円/本 |
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効果 | ニキビダニや寄生虫、嫌気性菌を減らす抗菌作用がある。 抗炎症作用、免疫抑制作用などもあるため、酒さを改善させる。 |
副作用 | 過敏性反応、皮膚刺激、皮膚の乾燥、発赤などが起こることがある。 |
その他の保険適用の外用薬では、イオウカンフルローションがあります。皮膚を乾燥させ、殺菌作用を持つため、皮脂が多い酒さの症状に効果的です。
内服薬としてはテトラサイクリン系抗生物質などが3カ月程度処方されます。抗生物質は、感染症の原因菌に対処するほか、抗炎症作用を持つため有効だと考えられています。テトラサイクリン系抗生物質で副作用があった方や禁忌の方にはマクロライド系抗生物質が使われることがあります。また、東洋医学では「瘀血(おけつ)」という、血流鬱滞の体質が関与しているという考えのもと、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、加味逍遥散などの漢方薬が処方されます。このほか、体の熱を冷まし火照りをとる白虎加人参湯なども使われることがあります。
その他の治療
保険適用外になっている治療法も少なくありません。
アゼライン酸クリーム、レチノイド外用薬、イソトレチノイン内服薬や、レーザー治療などを行うこともあります。
酒さの予防や注意事項
米国皮膚科学会(AAD)は、酒さの発症を予防するメソッドをいくつか発表しています。患者によって酒さの発症を誘発する要因は異なるため、どの要素がその人にとって大きいかという特定を行います。
悪化因子を避けること
AADでは、香辛料を多く含む食物、カフェイン、赤ワイン、熱すぎる飲食物などが原因になりやすいこと、また、食事の内容と肌の状態を毎日記録することを説明しています。
初期治療としては発症の誘因を回避することが重要です。酒さの予防方法として、風や冷風から顔を守るためにスカーフやマフラーを用いる、肌に触れる衣服などには刺激の強い素材を使ったものを選ばないようにする、過度に暑い環境を避ける、外出時には日焼け止め(SPF30以上)を塗ったり、日傘や帽子を使って紫外線から肌を保護するなどが挙げられています。
スキンケア
酒さの患者は皮膚が非常に敏感になっているため、洗顔や化粧といった日常生活面でも注意が必要です。洗顔の際はこすりすぎて皮膚に刺激を与えないよう、よく泡立てて、手と顔が触れないように泡を転がして洗うのが良い方法です。化粧品は低刺激性のものを選ぶようにしましょう。