傷・熱傷の治療に消毒薬は不要?「湿潤療法」は傷跡を残さず完治

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今回は、熱湯や高温のものに触れて熱傷を負ったときや、切り傷・擦り傷などができたときに用いられる治療法、「湿潤療法」について詳しく解説します。

昔は、こうした傷ができると消毒液をかけてガーゼなどを当て、乾かして治療するという考え方が一般的でした。しかし近年、消毒液はかえって自己治癒力を少し弱らせてしまうことが明らかになってきました。当院でも消毒に代えて痛みが少なく傷跡も残りにくい湿潤療法を取り入れています。

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湿潤療法とは?

湿潤療法とは別名「うるおい療法」「モイストヒーリング」とも言われる、少し湿った状態をキープして傷を治す治療法のことです。

皮膚に傷ができると、傷口から浸出液が出てきます。この体液の中には皮膚が破壊された箇所を修復するための成分が含まれているため、浸出液はむやみに拭き取ったり乾かしたりせずに湿った状態にしておくことで、傷の治りが早くなります。湿潤療法は日本皮膚科学会の創傷・褥瘡・熱傷ガイドラインにも記載されている科学的根拠のある治療法です。

湿潤療法に対する懸念点

子どものころ転んだ擦り傷にオキシドールを塗ってもらった方はいらっしゃいませんか?
塗ると泡がシュワっと出てバイキンを消毒できると考えらえれていました。湿潤療法はこういった従来の方法と大きく異なります。
「傷口を消毒しないと化膿するのでは……」という疑問があるかと思いますが、実は傷口が化膿する原因は、感染源(傷口にある異物または壊死組織)がある場合に限ります。傷口の縫合糸、動物性・植物性の異物、かさぶた、汚染された人工物、血種などが感染源となるもので、傷口単体では感染が起こることはほとんどありません。

むしろ、消毒液には界面活性剤などの添加物が含まれていることがあり、傷口の細胞を傷つける恐れもあります。また消毒液の効果ですが、血液・壊死組織・膿などの有機物があるとそちらで殺菌効果を使ってしまうため、傷口を浄化する意味での消毒作用はほとんど減殺されてしまっていると言えます。

湿潤療法の3つのメリット

  • 痛みを軽減できること
  •   乾燥による神経への刺激をおさえ、傷がくっつかないので痛みがやわらぎます。

  • 早く治ること
  •   皮膚の回復に適した環境を整え、体液(浸出液)を保つことで早く治ります。

  • きれいに治ること
  •   あとが残る原因になりやすいかさぶたをつくらずにきれいに治します。

 

湿潤療法の手順

通常、湿潤療法を行う際の手順は以下の通りです。

(1)傷口をきれいな水道水で洗い流す
(2)湿潤治療用の被覆材で傷口を覆い保護および浸出液を外に漏らさないようにガードする
(3)傷口の洗浄と被覆を1日1~2回繰り返す

まずは傷口の汚れと細菌を洗い落とすために、流水で洗うことが大切です。次に専用の被覆材(ハイドロコロイド製剤など)を使って、自己修復力を持った浸出液で湿った状態を保ちます。専用の被覆材がない場合はワセリンを塗り、清潔な非固着性ガーゼなどで覆うことでも同様の効果を得られます。

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ハイドロコロイド製剤

家庭でも市販のキズテープ(ハイドロコロイド製剤)を用いて湿潤療法を行うことが可能です。ハイドロコロイド製剤は、浸出液を吸収するとゲル状になって傷口の乾燥を防ぐので、浸出液にひたっている状態をキープすることができます。

ハイドロコロイド製剤は傷口よりも大きなサイズを選びましょう。浸出液(しみ出し)が多くない場合、一週間ほど貼ったままで、はがしたら治っていることもあります。ただしあせもやとびひを防ぐために1日1~2回は傷口を流水で洗い、貼り替えることを推奨します。夏場や汗をたくさんかいた日は1日3回取り替えても大丈夫です。

» ハイドロコロイド製剤の詳細はこちら

効果のある傷のタイプ

湿潤療法が効果的な傷のタイプには次のようなものがあります。

  • 擦り傷
  • 切り傷
  • 靴擦れ
  • 床ずれ
  • 熱傷

湿潤療法を用いた事例

当院スタッフが転倒して手のひらを負傷し、皮が大きく剥けてしまったことがありました。その際、湿潤療法を用いて治療したところ1週間ほどで完治し、傷跡も残りませんでした。現在は、怪我をしたのが左右どちらの手だったかわからないほど見た目もきれいになっています。

また乳幼児がポットを倒して熱湯をかぶってしまったケースで、湿潤療法を用いて傷跡を残さず治している症例が多く見られます。従来のように、熱傷を消毒したのち皮の剥けた部分(かさぶたなど)をはがすという方法では痛みと出血が伴い、お子さんが痛がって泣いてしまうということがありました。湿潤療法では治療による痛みはありませんので、小さなお子さんでも安心です。

湿潤療法の注意点

傷の治りを早くして、痛みや傷跡といった悩みの少ない湿潤療法ですが、すべての傷に対して効果が高いわけではありません。

以下のようなケースでは湿潤療法を使わないことをおすすめします。

  • 傷が化膿している
  • 傷が深く出血量が多い
  • かさぶた

熱傷の治療にも湿潤療法は効果的ですが、家庭では行わずに医療機関で適切な処置を受けるようにしてください。市販のキズテープ類(ハイドロコロイド製剤)を使うと感染症をおこす危険性があります。医療機関で診療を受けると、市販薬にはないフィブラストスプレーという薬剤(保険適用)を用いて熱傷を治療することがあります。

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また、家庭用キズテープの使用注意書きに「3歳以下(2歳以下)の子どもの使用は避ける」といった注意があることがあるため、注意書きをよく読んでから使用しましょう。市販薬の注意書きで避けるとされていても、医療機関においては医師の判断で効果が見込める場合に小さな子どもにも湿潤療法を用いることがあります。

ご来院いただかないと処置はできませんが、オンライン診療でご相談いただくことも可能です。

» オンライン診療の詳細はこちら

まとめ
  • 傷や熱傷の治療は従来の「傷口を消毒し乾燥させて治す」方法から「湿潤療法」へ。
  • 市販の被覆材で家庭でも治療が可能。
  • 出血や化膿した傷は湿潤療法に向かない。
  • ハイドロコロイド製剤はきれいな傷に大きめのものを使用する。
  • 湿潤治療で心配な点があれば医療機関へ。
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記事制作者

小西真絢(巣鴨千石皮ふ科)

「巣鴨千石皮ふ科」院長。日本皮膚科学会認定専門医。2017年、生まれ育った千石にて 「巣鴨千石皮ふ科」 を開院。
2児の母でもあり、「お肌のトラブルは何でも相談できるホームドクター」を目指しています。