小児アトピー性皮膚炎の薬剤まとめ。新薬登場で治療法が多様に

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12歳以上の小児アトピー性皮膚炎に全身療法薬の適応が認められ、小児アトピー性皮膚炎の治療法が充実してきました。患者様の年齢や重症度、患部の場所などに応じて、一人一人に適した治療法を選べるようになってきています。
このコラムでは小児アトピー性皮膚炎の原因や治療法など基本の解説とあわせて、年齢別に適応のある薬物の一覧を図解します。小児に適応のある新薬も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

小児アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、「皮膚が赤くなる」「ぶつぶつができる」「皮膚が乾燥して剥ける」といった湿疹の症状が、良くなったり悪くなったりを繰り返す、慢性的な皮膚疾患です。一般に乳幼児・小児期に発症し、年齢が高くなるにつれて自然と症状が改善していく傾向にあります。皮膚のバリア機能および免疫の異常反応で、肌への刺激や強いストレスによって皮膚が炎症を起こした状態を指します。

似た症状に乳児湿疹、あせもやとびひなどもありますが、乳幼児で2カ月以上、幼児期では6カ月以上にわたり上記のような湿疹が続くとアトピー性皮膚炎と診断いたします。

アトピー性皮膚炎の特徴として、湿疹が左右対称に現れることや、はげしい痒みを伴うこと、年齢によって湿疹の生じやすい部位が変わることなどがあります。乳児では顔や首、頭部に湿疹が生じやすく、悪化すると上半身や手足に広がります。幼児~学童では臀部、肘・ひざの内側および裏側、首周辺にできやすく、思春期に入ると上半身全体に現れることが多くなります。

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小児アトピー性皮膚炎の有病率

小児アトピー性皮膚炎の有病率

小児アトピー性皮膚炎は15歳以下とされており、早ければ生後2カ月頃から発症します。発症年齢が1歳以降の場合は難治性になる確率が上がるとされています。発症する方の約80%が5歳頃までに症状が現れます。2000~2002年の厚生労働省研究班による全国調査によると、アトピー性皮膚炎の有病率は4カ月児:12.8%、1歳半児:9.8%、3歳児:13.2%、小学1年生:11.8%、小学6年生:10.6%、大学1年生:8.2%でした。
家族にアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー疾患をがあるとアレルギーを発症しやすい遺伝を持っていると考えられます。

小児アトピー性皮膚炎を引き起こす要因

皮膚への刺激になる、ダニ、ホコリといったハウスダスト、化学物質、汚れ、汗、乾燥、紫外線などがアトピー性皮膚炎を引き起こしやすい要因です。ほかに、卵や牛乳といった食物が抗原になることもあります。また、睡眠不足や心理的ストレス、過労などは免疫力を低下させるため、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因と考えられています。

強いかゆみを伴うことが多く、ひっかいて皮膚を傷つけてしまうと肌のバリア機能が壊され、さらに症状が憎悪しやすくなります。特に小児はかゆみを我慢することがむずかしいため、かゆみ止めの薬を処方するなどして、なるべくひっかかないようにする対応も大切です。

アトピー性皮膚炎の治療目標

アトピー性皮膚炎は慢性疾患で、完全な治癒を目標とすることはむずかしい病気です。しかし、乳幼児期に発症した場合は加齢とともに自然と改善していくことが多く、適切な治療によって寛解を目指すことも可能です。アレルギー素因を持ち続けていても、症状がほとんど出ない、あるいは軽微な症状のみということであれば、アトピー性皮膚炎は寛解したと考えて良いでしょう。

アトピー性皮膚炎の治療目標は次の通りです。
●症状がない、あるいは軽微で日常生活に支障がなく、薬物治療も必要ない
●軽い症状があるが、急激な悪化はほとんど起こらない。悪化しても短期間で終わる

アトピー性皮膚炎の基本の治療3つ

アトピー性皮膚炎の治療は(1)スキンケア、(2)悪化対策、(3)薬物療法の3本柱によって組み立てられます。この3本の治療方法は同時に行うことが重要で、患者様一人一人の症状の種類や重症度によって適切に組み合わせています。また患者様ご本人や家族も治療に積極的に関わることも非常に重要になります。

スキンケア

スキンケアは、皮膚を清潔に保ち、保湿して肌機能を保護することが目的です。

入浴またはシャワーはできるだけ毎日行い、汗や汚れはその日のうちに落とします。熱い湯や、石鹸やシャンプーなどは洗浄力が強すぎるものは避け、肌への刺激が少ないタイプを選びましょう。こうした洗身剤は洗い残しがあると肌を刺激するため、よくすすぐことも肝心です。

肌を清潔にした後はクリームなどを用いて皮膚の保湿を行います。また、医療機関から外用薬が処方されている場合は、患部を洗って清潔にした後の使用が適切です。幼児~小児は自分で丁寧に行うことがむずかしいことがあるため、大人が補助をすると良いでしょう。

こうしたスキンケアによって皮膚の持つ水分保持力が高まると、乾燥による痒みが抑制され、患部をひっかくことも軽減します。

悪化対策

アトピー性皮膚炎の発症は、通常は複数の要因が関与して起こるのですが、その患者本人にとってのアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)をある程度特定し、できるだけ接触を遠ざけることで、症状が早期に改善し、再発を抑制できることがあります。

アレルゲンの特定は、血液検査でIgE値や好酸球の数値を調べるものや、金属などのパッチテストなどを行うのが一般的です。

アトピー性皮膚炎は、ほこりやダニ、汚れ、汗、紫外線が要因になり得ます。室内の掃除と換気、こまめに布団やカーペットを干すことでハウスダストを除去するなど、普段の生活でも対策をとることができます。

なお、小児アトピー性皮膚炎では、特定の食物を食べたあとに湿疹が憎悪することがしばしばあります。その場合は除去食が必要となりますが、除去によって食事内容が偏ると子どもの成長に障害が生じるリスクがあります。糖質・脂質・たんぱく質、ビタミンやミネラルのバランスがよい食事にするため、まずは医師に相談してください。食品添加物や砂糖、脂肪分を多く含んだスナック菓子やインスタント食品は、痒みを悪化させる可能性があるので食べ過ぎには注意が必要です。

また、毎日7時間程度の睡眠時間を確保する、ストレスを抱え込まない、適度に運動するといった、健康全般に好影響を与える生活習慣を整えましょう。爪を短く切って整えて、ひっかきのダメージを少なくする対策もあります。

薬物療法

スキンケアや悪化対策をとっても症状の改善が見られない場合は、専門医師の指示に従って処方薬を使います。薬物治療を開始すると、肌の見た目が早くきれいになりますが、皮膚の下では炎症が持続しています。自己判断で治療をやめると湿疹が再発してしまうので、医師のアドバイスをもとに、寛解状態を維持しながら薬の使用量を少しずつ減らしましょう。

小児アトピー性皮膚炎に適応のある薬剤

人間の身体は年齢や部位によって薬剤の吸収率や効き目が異なります。そのため、年齢に応じた適切な薬を、適量使用することが非常に重要です。

外用薬

ステロイド外用薬

ステロイド外用薬は免疫反応と炎症を抑える働きがあり、全年齢で使用可能です。ステロイド外用薬は5段階の強さに分かれており、1群がもっとも強く、5群が最も弱いとなっています。患者の皮膚状態および患部の吸収率にあった強さの薬が処方されますので、数日~数週間続けて塗り、徐々に薬を塗らない日を増やしていきます。

ステロイド外用薬の使用で皮膚が黒ずむことがありますが、これは副作用ではなく炎症が長く続いたことによるものなので、治療とともに薄れていきます。糖尿病や成長障害といった副作用の話を聞くことがありますが、外用薬でこうした副作用が出ることはありません。

プロトピック軟膏(タクロリムス )

免疫の過剰反応と炎症を抑えて痒みを軽減する薬で、ステロイド外用薬であまり効果が見られかった場合や副作用が起こった場合に処方します。0.03%は小児用で2歳児から使用可能ですが、年齢(体重)区分により使用上限量が定められています。

コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)

コレクチムは外用ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬と呼ばれる塗り薬です。細胞内のJAKなどのシグナル経路から伝達される、炎症を起こす要因をコレクチムはブロック。皮膚の炎症やかゆみを抑えます。濃度は0.25%と0.5%の2種類から選べますが、通常小児向けには0.25%製剤を1日2回塗ります。使用可能年齢は生後6ヵ月からとなっています。

内服薬

リンヴォック錠(ウパダシチニブ)

痒みと皮膚の炎症を抑えるJAK阻害薬の飲み薬です。JAK経路をブロックすることで、サイトカイン(細胞同士の情報を伝達して免疫細胞の活性化・抑制の作用をはたすたんぱく質)が受容体に接触しても炎症や痒みを起こす信号が伝達されない、という効果を発揮します。2021年9月から12歳から処方可能となりました。1日1回毎日内服しますが、どのタイミングで服用してもかまいません。

オルミエント錠(バリシチニブ)

もともと関節リウマチの薬として処方されており、アトピー性皮膚炎の飲み薬としては12年ぶりの適応となった内服薬です。JAK阻害薬で、痒みと炎症、皮膚のバリア機能の低下を抑えます。外用薬を用いた治療でも目立った改善が見られない場合や、日常生活に支障をきたす場合に、ほかの治療と組み合わせて処方します。15歳からのみ使用可能。

注射薬

デュピクセント(デュピルマブ)

アトピー性皮膚炎治療薬として初めての生物学的製剤である新薬です。IL-4とIL-13というサイトカインの働きを直接抑制することで、皮膚の2型炎症反応を抑える新しいタイプの薬です。アトピー性皮膚炎の治療としては15歳以上から使用可能。デュピルマブ(遺伝子組み換え)を、初回に300mg2本を皮下投与し、以降は300mgを2週間ごとに投与します。継続治療にあたっては、投与箇所を前回の位置と違う部位に注射します。めまいや息苦しさ、嘔吐感などの過敏症反応が現れた場合は投与を中止し、速やかにご相談ください。

0~15歳で適応できる小児アトピー性皮膚炎治療薬剤の一覧(2024年)

現時点の年齢別のアトピー治療薬剤の適応を示します。(2024年1月現在)
2023年1月にコレクチム軟膏は生後6ヵ月以上2歳未満の小児用法が追加されました(一覧表参照)。この改訂により生後6ヵ月の赤ちゃんにステロイド以外の選択肢ができました。

ステロイド プロトピック コレクチム デュピクセント リンヴォック オルミエント
薬の種類 塗り薬 塗り薬 塗り薬 注射 飲み薬 飲み薬
0~1歳
2~11歳
12~14歳
15歳

小児アトピー性皮膚炎の全身療法とは

小児アトピー性皮膚炎の全身療法とは、内服薬や注射治療、紫外線治療のことを指します。外用薬を使用しても症状の改善があまり見られない場合、または急激な症状の悪化が起こった場合、こうした全身療法を外用薬での治療と並行して取り入れます。

免疫抑制剤や経口ステロイド薬、注射薬などは短期間使用する薬で、医師が必要と判断した時期だけ使うことになります。

全身療法は医師の指導が必要ですが、非常に効果の高い治療ですので、適量・適切な用法を守ればアトピー性皮膚炎の悩みを早く改善することが期待できます。当院は、小児アトピー性皮膚炎にお悩みの方を多く診療してきました。新薬や全身療法など最新の治療法も日々研究しながら取り入れています。リンヴォック錠、オルミエント錠、デュピクセントの使用法や注意点など気になることがある場合は、ぜひご相談ください。

まずはオンライン診療でご相談いただくことも可能です。

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まとめ
  • 小児アトピー性皮膚炎は、強い痒みや赤みを伴う湿疹が寛解・悪化を繰り返す慢性疾患。
  • 治療目標は、発症がない期間が長く継続する、または軽微の発症で、悪化しても短期間で終わる状態。
  • 約80%の患者は5歳頃までに発症し、加齢とともに症状が改善していく傾向にある。
  • 家族に気管支喘息、アレルギー疾患を持っている人がいると、子どももアレルギーを発症しやすい。
  • アトピー性皮膚炎は環境的要因・心理的要因・食物アレルギーなど複数の要因が引き起こす多因子性疾患のため、発病の原因を特定することが大事。
  • 治療の3本柱はスキンケア・悪化対策・薬物療法。
  • 薬物療法は第一段階として外用薬を使用し、症状に応じて内服薬などを組み合わせることがある。
  • 全身療法として、内服薬や注射薬の新薬が続々登場している。
  • アトピー性皮膚炎の治療は医師の指導をもとに継続し、自己判断で中止しない。

 

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記事制作者

小西真絢(巣鴨千石皮ふ科)

「巣鴨千石皮ふ科」院長。日本皮膚科学会認定専門医。2017年、生まれ育った千石にて 「巣鴨千石皮ふ科」 を開院。
2児の母でもあり、「お肌のトラブルは何でも相談できるホームドクター」を目指しています。