公開日:2023年01月25日
最終更新日:2024年12月02日
最終更新日:2024年12月02日
今回のコラムは趣向を変え対話形式です。
日々、アトピー性皮膚炎にお悩みの患者さまと一緒にたたかっている医師・薬剤師・看護師が、各々の視点から治療薬を検討しています。患者さまの治療選択の参考になれば幸いです。
目次
アトピー性皮膚炎治療薬の比較・検討
登場人物
ドクター | 薬剤師 | ナース |
---|---|---|
皮膚科専門医。アトピー性皮膚炎に力を入れており、よりよい治療を常に模索している。 | 近隣薬局の薬剤師。文献好きでデータに通じ最新の英語論文を読むことも多い薬の専門家。 | 共感力が高く患者さまの心理に精通している。物怖じしない性格のベテラン看護師。 |
薬剤師- 先生、最近アトピー性皮膚炎のお薬、増えましたねぇ。
ドクター- 次々と発売されましたね。選択肢が増えるのは患者さんにとってプラスなので喜ばしいことです。
2018年以降に増えたアトピー性皮膚炎治療薬
発売年 | 薬剤名 | 薬の種類 |
---|---|---|
2018 | デュピクセント | 注射 |
2020 | コレクチム軟膏 | 塗り薬 |
2020 | オルミエント | 飲み薬 |
2021 | リンヴォック | 飲み薬 |
2021 | サイバインコ | 飲み薬 |
2022 | モイゼルト軟膏 | 塗り薬 |
2022 | ミチーガ | 注射 |
2023 | アドトラーザ | 注射 |
薬剤師- 薬局で患者さまに説明するときのために、薬の使い分けを把握しておきたいのですが、お時間いただけませんか?
ドクター- いいですね、情報交換をしましょう。使い分けならまずは全身療法の治療薬がいいですね。患者さまの状況に応じて、いろいろな切り口で検討するとよいと思います。
薬剤師- ありがとうございます!それでは私は臨床成績の文献を読み込んでおきます!
ドクター- 頼りにしてます!
看護師にも声をかけておきますね。薬局でお薬を受け取ってから看護師が指導をすることも多いんです。
薬剤師- 看護師さんのお話もお聞きしたいです。ぜひご一緒にお願いします。
~後日~
ドクター- 本日はよろしくお願いします。ではまず当院の薬剤別の症例数をお示しします。
(全身療法治療薬の症例数提示)
薬剤師- ミチーガをお使いの患者さまもいらっしゃったんですね。(院内で注射が完結するので)薬局では知りませんでした。最も多いのはデュピクセントで、リンヴォックが続くという感じですね。
薬局でも同様の状況で、ちょうどこの2剤についていろいろな文献を確認してきましたので、主にデュピクセントとリンヴォックの使い分けを確認したいです。
ドクター- そうですね。使い分けといっても画一的に決めているわけではありません。患者さまのお話を伺いながら状況を確認し、各々の方に合わせて一緒に選択するようにしています。
検討項目をリストアップするとこんな感じになります。- 効果(強さ・早さ)と副作用
- 年齢制限(何歳から使えるか)
- 服用方法
- 治療の前に必要な検査(スクリーニング)
- 費用負担
薬剤師- 順に確認させてください!
テーマ1:効果(強さ・早さ)と副作用
ドクター- くすりは効果を期待して投与するので、効果の強さや早さは大事ですね。ただし効果だけでは治療は決められません。
効果(主作用)以外の望まない作用である副作用は、薬の効果と表裏一体なのでしっかりと把握する必要があります。
薬剤師- 主作用のメリットが副作用のデメリットをどれぐらい上回るか、許容範囲の判断が大事になってきますね。
リンヴォックの効果と副作用は?
薬剤師- デュピクセントとリンヴォックの2剤を直接比較した「Heads Up試験」の結果ではリンヴォックがデュピクセントに対して有意に高い効果を示していました。
ドクター- はい、確かにリンヴォックの切れ味はすごいです。飲んだ数時間後からかゆみが引いたとおっしゃる方もいるぐらいです。ただし臨床試験の結果では投与量を注意してみる必要があります。
この試験ではずっとリンヴォック30mgを使っていますが、30mgはリンヴォックの最大容量なんです。
薬剤師- つまりリンヴォックの投与量が多すぎるのではないかとお考えですか?
ドクター- いえ、試験デザインを守らないと正しい結果が出ないので、臨床成績には何の異論もありません。ただし、実際の治療ではずっと最大量を投与するわけではなく、症状が落ち着いたらできるだけ薬の量を減らすようにしています。
薬剤師- 確かにそうですよね。リンヴォックの場合は30mg錠と15mg錠があって、1錠単位で調整できるので減量もしやすいですね。薬剤の増減についてなにか目安はあるのでしょうか?
ドクター- 15mgから30mg錠への増量、または30mgから15mgへの減量はどちらも認められていますが、どのタイミングで増量、減量すればよいかについてのデータはまだありませんので医師の判断で行います。
ナース- 私が気になっているのは、リンヴォックの投与量と副作用との関係です。リンヴォック30mgを飲まれている患者さまからは、ニキビやヘルペスなどの相談を頂くことが多いように思います。
ドクター- そうですね、先ほどの「Heads Up試験」でも同様の結果が出ています。リンヴォックは免疫をおさえるお薬なので、どうしても感染症に対する抵抗力は弱くなってしまいます。
ただし副作用であらわれるニキビやヘルペスなどの皮膚感染症は、皮膚科領域の疾患なので副作用も含めてコントロールできる点は安心ですね。
ドクター- まとめると、リンヴォックはかゆみをおさえるはたらきが強く、すぐに効果が出ますが、皮膚感染症をケアしながら使うという感じですね。
デュピクセントの効果と副作用は?
薬剤師- 一方、デュピクセントは皮膚感染症のリスクが少ないですね。論文のメタ解析ではデュピクセント使用群では皮膚感染症のリスクは少なく、むしろ減少するという結果もあるようです。
ドクター- 非常に面白い結果ですが、皮膚の状態がよくなって、ひっかき傷が減るため感染症のリスクも減ると考えることもできます。
卵が先か鶏が先かという話になってしまうのですが、現時点では因果関係を証明できていないのでエビデンスの集積を待ちたいです。
薬剤師- デュピクセントの副作用に関してはいかがでしょうか?
ドクター- デュピクセントは、重篤な副作用が特になく安全性が高い薬剤だと感じています。IL-4とIL13というかゆみや皮膚症状を引き起こすサイトカインをブロックするというシンプルな作用機序なので、他への影響が少ないのではないかと思います。
ときおり対面するのは結膜炎(目の充血)で約17%の頻度で発生します。ただし抗アレルギー薬の点眼薬で改善することが多いです。
薬剤師- 市販直後調査の結果によると、デュピクセントの結膜炎の副作用は重篤な有害事象ではないため、当局に報告の必要がないそうです。安全性の高さの裏返しといえると思います。
ドクター- デュピクセントの安全性の高さがわかったところで、効果について検討しましょう。
そもそもアトピー性皮膚炎の症状は、かゆみと皮疹などの皮膚症状があります。デュピクセントのかゆみをおさえる早さはリンヴォックには劣りますが、皮疹を改善する効果に優れています。
薬剤師- 皮疹が改善されるとどうなるのですか?
ドクター- 皮膚がもちもちしてくるようになります。
ナース- 本当にモチモチになりますよね。患者さまもとても喜んでくれるので元気が出ます。
ドクター- デュピクセントはかゆみをおさえながら同時に皮疹を改善する効果があり、安全性とバランスが取れている薬剤だと感じています。
薬剤師- ありがとうございます。薬剤の特性がよくわかりました。では次の話題に移りましょう。
テーマ2:年齢制限(何歳から使えるか)
ナース- アトピー性皮膚炎のお子さんを持つ親御様からよく相談をいただきますが、年齢制限も大事なポイントですね。
ナース- よくいただくお悩みとしては以下のようなものが多いです。
- 痒みでよく寝られず睡眠不足になり勉強に集中できない。
- 汗をかくと痒みがひどくなるので運動を嫌がる。
- 引っ掻くと見た目に影響が出てお友達の視線を気にする。
ドクター- デュピクセントは15歳から、リンヴォックは12歳から使用可能で、年齢制限のため投与できず、誕生日を待っているお子さまもいらっしゃいます。
たった3年の差に見えますが、この期間に症状をコントロールできて過ごせるかどうかの違いは大きく、人生に大きな影響を与える可能性があると思います。
※2023年9月よりデュピクセントは生後6ヶ月から使えるようになりました
ナース- そうですね。特にお子さんは皮膚の回復が早い印象があります。リンヴォックを導入した小児アトピーの患者さまは、2週間後に来院したときにはすっかり肌がきれいになっていたというケースも見受けられます。
ドクター- 本当に驚きますよね、若さがうらやましいです(笑)
薬剤師- 小児適応に関して、サノフィ社がデュピクセントの小児適応を申請したとプレスリリースが出していました。
ドクター- そうなんですよ。当院も治験に参加していますので、承認を心待ちにしています。
テーマ3:薬剤の服用方法
薬剤師- さて次の話題は剤型の違いについてです。デュピクセントは注射、リンヴォックは飲み薬なので、2剤の間で最も大きく異なっている点ともいえますね。
単純比較では飲み薬の方が受け入れられやすいかなと思うのですが、実際はいかがでしょうか?
ナース- ここは私の出番ですね!デュピクセントの注射についてご説明します。注射器の使い方は改良されたペン型デバイスが発売されてから非常に簡単になりました。患者さまにもすぐ理解してもらえるようになり説明にあまり時間がかからなくなりました。
ドクター- シリンジのころは説明が煩雑なので集団指導をしていたこともありましたね。
ナース- なつかしいですねぇ。ペン型になって操作は簡単になったのですが、薬液の注入スピードが自分でコントロールできなくなり、一気に注入されます。
ネットの書き込みを見てこられる方も多く「注射痛いんでしょ?」と不安げに聞いてこられます。もちろん痛みがないとは言いませんが「思ったより痛くない」という方も多いですよ。
薬剤師- 注射以外の剤型の可能性ですが、デュピクセント治験では注射ではなく錠剤の剤型も試したようですね。ただし同じ効果が出なかったため、今後も注射は変わらないようです。
ドクター- 確かに飲み薬と注射という剤形だけを比べると、飲み薬の方がよいように思われるかもしれません。しかし飲み薬のリンヴォックを選んだとしても、3カ月に一度血液検査をしないといけないので、実は注射(採血)をしないといけないんです。
薬剤師- そうなんですか!それは盲点でした。
ナース- 私が患者さまからお聞きして興味深かったのは、デュピクセントは2週間に1回投与なので「スペシャル感がある」というとらえ方です。錠剤だと飲み忘れてしまうけれど注射なら忘れないそうです。
薬剤師- へぇ~!カンフル剤みたいですね。
ドクター- こんな話も聞いたことがあります。自己注射で投与されている方の言葉です。
「注射はいつだって嫌だ。でも恐怖を乗り越えて自らの注射により症状が改善していくのは、自力で病気を乗り越えるようで満足感がある。」
とても前向きで応援したくなりますね。
テーマ4:治療の前に必要な検査(スクリーニング)
ドクター- 次に導入前の事前検査について検討します。
リンヴォックは導入前のスクリーニング項目に胸部X線検査があり、導入前に肺に異常がないかを確認する必要があります。さらっと言いましたが、実はこれは結構ハードルが高いです。
ドクター- 胸部X線とは通称レントゲンのことで、一般的な皮膚科クリニックでレントゲンの機器を持っている施設はなかなかないのではないかと思います。
幸い当院は同じビル内に、機器をお持ちの内科の先生がいらっしゃるので検査がスムーズに行えますが、条件がそろわないと難しいでしょう。
その点デュピクセントは同様の検査の必要がなく、新規導入できる点はメリットが大きいです。
薬剤師- 薬効の差以上に大きな違いがたくさんあることがわかりました。
テーマ5:費用負担
薬剤師- 最後に避けて通れないお金の話です。デュピクセントもリンヴォックも高価な薬剤です。薬剤費を計算すると(薬価28日分)
デュピクセント(導入月)17万5千円
リンヴォック 15mg投与:14万2千円
リンヴォック 30mg投与:20万5千円
となります。
ドクター- そうですね、高額な薬剤費に加えて必須の検査費用などもかかります。保険診療なので患者さまの自己負担額は総額の3割以下になりますが、それでも高額なため薬剤の選択基準には経済的な事情も影響します。
ドクター- 当院が立地する東京23区の場合は、小児の医療証を提示すると15歳までの患者さまの自己負担分が無料になります(各自治体によって異なります)。
リンヴォックは12歳以上から投与でき、12~15歳の間は自己負担がかからないためリンヴォックが選ばれる理由の一つになっています。
薬剤師- 治療費は悩ましいところですよね。薬局でも限度額適用認定証を提示される方がいらっしゃいます。負担軽減にはどのような制度が使えますか?
ドクター- 先ほどの限度額適応認定や高額療養費制度を利用される方は多くいらっしゃいます。その場合、ご本人の所得によって上限額が変わります。
また所属する企業の健保組合が独自の付加給付制度を行っている場合もあります。お一人お一人異なるため、個別に検討する必要があります。
ナース- うちの事務さんたちはこの辺詳しいので「案ずるより産むが易し」、お一人で悩まれている方がいらっしゃったら、まずはご相談いただくとよいと思います。
薬剤師- 全身療法を導入した患者さまがおっしゃっていたのですが、
「これまで民間療法や水・サプリなどにたくさんお金を使ったけれど効果がなかった。全身療法は高額ではあるが、金額に見合った効果があるので決して高いと思わない。早く始めればよかった。」
という言葉が印象的でした。
ドクター- 費用対効果の感じ方は人それぞれだなと感じます。ある患者さまは、所得が高く補助には該当しないにもかかわらず、全身療法の治療を続けていらっしゃいます。内心、費用対効果の点でご満足いただけているか心配していました。
薬剤師- わかります!医療費は厚労省が決めているので我々にはどうしようもないですが、お支払いが高額だと少し申し訳ない気持ちになりますよね。
ドクター- その方は
「これまでは仕事が忙しくて負荷が高くなるとストレスで症状が悪化していた。しかし治療を始めてからは仕事が忙しくなっても悪化しなくなった。普通の状態を保てることが自分にとって大変価値がある。」
と大変ご満足いただいた様子でした。
薬剤師- まさにアトピー性皮膚炎の治療目標の「長期寛解維持」を達成されているといことですね。
ドクター- 我々、医療従事者は患者さまの症状が改善され、生活の質を上げることがやりがいです。
従来の治療で満足できずになかばあきらめてしまった方もいらっしゃると思います。今はよいお薬も出ていますので、ぜひあきらめずにチャレンジしていただきたいです。全力でサポートいたします。
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